独SAPは米フロリダ州オーランドで「SAPPHIRE NOW Orlando 2012」を開催した。千秋楽となる5月17日は創業者のHasso Plattner氏と最高技術責任者(CTO)のVishal Sikka氏が基調講演に登壇した。
SAPはインメモリ技術「SAP HANA」によりエンタープライズのダイナミクスを根本から変えるという大きな賭けに出ている。そのインメモリ技術の立役者2人が順番にステージに立ち、技術とビジネスの両面からHANAの現状と展望を語った。
SAP史上最も成功した製品、HANA
HANAは2年前のSAPPHIREでベールを脱いだインメモリ技術だ。インメモリは、ディスクではなくシステムのメインメモリにデータを格納することで高速化を図る手法である。
HANAは当初、分析系(OLAP)の高速化技術として登場したが、2011年11月に発表したSP3では、同社の統合基幹業務システム(ERP)パッケージ「SAP ERP」のユーザー企業が利用するデータウェアハウス「SAP NetWeaver Business Warehouse」に対応、更新系(OLTP)に拡大した。
Platter氏は「HANAは実験的なものではない」と説明。「SAPのほとんどのアプリケーションの土台となる――これにはオンプレミスもクラウドも含まれる」と続ける。SAPはHANAをプラットフォームにも拡大し、リニューアルを図る考えだ。
さらにSAP以外のアプリケーションの土台としても売り込みを開始したところだ。複数の企業がHANAの上で既存のアプリケーションを動かそうとしているだけでなく、HANAの驚異的なスピードを活用する、全く新しいアプリケーションの登場に期待し、ベンチャー企業にHANAを使ってもらうプログラムも推進している。
Sikka氏によると、HANAは一般提供開始から11カ月で顧客数は353社、実装は148件あり、エンドユーザー数は5万6000人を上回るという。現在8社のハードウェアメーカーと提携しており、ライセンス売り上げは約200万ユーロとし「SAP史上、売り上げからみて最も成功した製品」(Sikka氏)という。業務ソフトウェア業界全体でみても最も成功した製品ではないかと説明する。
基調講演では多数のHANA導入事例が紹介された。たとえば、中国最大手の小売業SuningもHANAのユーザー企業だ。中国国内に1万8000店以上の店舗を持ち、3000人以上の営業マネージャーを抱える同社は、中央化したリアルタイム小売りシステムをSAPと共同で構築中だ。完成すれば世界最大のものになるという。
今回、繁忙期のビジネスプロセスが遅いという以前からの問題を解消する目的でHANA導入を決定、わずか2週間の実装期間を経て4月28日にライブとなった。中国のブラックフライデーといわれる5月1日にテストしたという。結果として、パフォーマンスは10倍から1000倍改善したと説明する。
このほか、Adobe Systemsは顧客満足度改善のためのイニシアティブ「Customer 365」でHANAを採用。SAP ERPにある購入履歴やSalesforce.comにあるリードとオポチュニティ、SAP CRMのサービス記録などさまざまなデータを利用してライフサイクル全体をサポートし、バリュー最適化を図るという。同じ作業を行うのにこれまで日単位を要していたが、HANAではリアルタイムになるとしている。Sikka氏は「HANAのユーザー企業に共通しているのは、ビジネスに価値をもたらしたことだ」とまとめる。
最新のSP4発表--テキスト検索、Hadoop統合
HANAは“タイムレス”ソフトウェアで、バージョン番号を持たない。半年おきにリリースするService Pack(SP)として新機能を提供する形式を取っており、SAPPHIRE会期中、最新となるSP4の一般提供開始が発表された。SP4では、テキスト検索、統計解析プログラミング言語「R」への対応、予測とビジネスファンクションの2ライブラリを追加、データプロビジョニング、高可用性などの特徴を持つ。