アップルという名の普通の会社 - (page 3)

三国大洋

2012-05-30 09:00

 ラシンスキー氏が根拠としているのは、iPhone 4Sから搭載されたパーソナルアシスタント機能「Siri」だ。

 Siriについては、「アップルが(完成度が低い)ベータ版の状態で製品を出すのは滅多になかったこと」「Siriの反応が遅いのは、サーバ側の作り込みが十分でなかった証」、さらに「(あんな状態の)Siriを目にしていたら、ジョブズはきっと気を失っていただろう」という匿名の元アップル社員のコメントを引用している。

 さらに、アップルのステークホルダーのなかでも一番大切な——従業員よりも、ウォールストリート(投資家)よりも、(フォクスコンのような)サプライヤーよりも大切な、ユーザー、つまり一般消費者からの評価はまだこれからだ。

 ティム・クックCEOの下で開発された新製品は、まだ出ていない——CEO交代前後から「アップルにはすでに2〜3年先までの製品ロードマップがある」とよく言われているため、その点でいえば、本当にこの部分の評価が出てくるのは早くても来年以降ということになる。しかし、市場での競争を考えると、そんなに悠長に構えていられないことは言うまでもない。

 また、製品開発の面では、ジョブズのようにハンズオンで口出しすることがなく、先ごろ母国で「騎士」に任じられたチーフデザイナーのジョナサン・アイブ(Jonathan Ive)氏(註9)や、[以前紹介したスコット・フォーストル氏(iOS担当シニアバイスプレジデント)]などの手に委ねることになるのだろうが、アップルの動向に詳しいブログ「Daring Fireball」のジョン・グルーバー(John Gruber)氏が今月はじめに指摘していた通り、iOS製品だけをとっても「収穫しやすい果実がどんどん少なくなって」おり、それだけ新製品の敷居が高くなっている(註10)という状況もある。また、かなり以前から噂が出回り続けているテレビ製品の投入についても、音楽(iTunes)で教訓を学んだ手強いハリウッドが交渉相手ということもあってか、今のところはまだ具体的な話が出てきていない。

 さらに稼ぎ頭のiPhoneでは、この春に大手携帯通信事業者2社が販売助成金の支払いを廃止したスペイン市場、そしてこの動きを注視する米ベライゾンやAT&T……といった報道(註11)が出ていることも考え合わせると、これまで半年以上にも渡って鮮やかな経営手腕を発揮してきたティム・クックCEOを取り巻く状況は決して安定しているといえるものでもなさそうだ。

 そうしたなかで、クックCEOが今後どんな舵取りを見せるのか。あるいはジョブズがかつて「世界で一番大きな新興企業」と自慢したアップルのあり方を維持し、強化していけるのか。

 GigaOMの記事を書いたエリカ・オグ(Erica Ogg)氏——CNET時代からアップルなどをカバーするベテラン記者——は、結論の部分で次のように記している。

「一番のポイントは、クックCEOが独自の(ジョブズとは違った)やり方で物事を進めているということ。同氏がもたらした変化は、多くの投資家を満足させ、またこの変化でアップル社員も怖れることが少なくなった。しかし、こうした変化が多くの人間が怖れていること……つまり『アップルがごく普通の企業に変わってしまう』ことにつながるかどうかは、まだ判らない」(註12)

追記:ラシンスキー氏が自分の記事について要約した動画を公開した

「ティム・クックCEO率いるアップルが直面する3つの課題」と題したこのビデオで、ラシンスキー氏が挙げている課題とは「魔法のような、信じられないほどすごい新製品はまだ出ていない」(Siriは「赤っ恥もの」で、新しいiPadも前機種の延長線上にあるものにすぎないとの見解)、「巨大で複雑になったアップルの経営」、それに「魔法のようなアップルの企業文化を維持していくこと」の3つ。

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註10:新製品の敷居が高くなっている

iOS Low-Hanging Fruit


註11:稼ぎ頭のiPhoneをめぐる状況

Wireless Carriers Chip Away at Phone Subsidies


註12:アップルがごく普通の企業に変わってしまう…?

The main takeway: Cook is doing his own thing, and that means doing things differently than Jobs. The changes he's instituted clearly make a lot of investors happy and life as an Apple employee sounds a little less terrifying. But it's still too soon to tell if either of those things will do what many fear: transform Apple into an ordinary company.

Tim Cook's Apple: the one Apple story to read today

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