6月12日に開催されたイベント「SAP Forum Tokyo」では、SAPのシニアバイスプレジデントで研究部門「SAP Research」を担当するMartin Przewloka(マーティン・シェブロッカ)氏が「SAP Research エマージングインダストリーを導くSAPのグローバル調査研究戦略」と題した特別講演を行った。全世界に拠点を持ち、700人のスタッフが在籍するというSAP Researchはどんな研究活動を行っているのか。
短期と中期に分けて研究
SAP Researchは「ITおよびビジネスソフトウェアの未来を見据える」というSAPの方針を実現するための部門となる。拠点は全世界に19カ所あり、「北米、南米、アジアと全世界各地に拠点が存在する。新しいところでは、シンガポールとロシアのスコルコボに設立した。拠点ごとに特定分野にスキルリソースを集中する体制を取り、例えばパリ南部にある拠点ではセキュリティに特化して研究を行っている」という。
所属する技術者は700人で、200を超すプロジェクト、800のパートナー、11の研究実践/イノベーショングループが存在する。研究の内容としては、ビジネス戦略、技術戦略、人材/スキル戦略という3つのカテゴリで、それぞれに分野を決めて研究を進めている。
研究アプローチとして、3~5年と中期での応用と技術革新を目指す「研究エンジン」、1~3年と短期でのビジネス育成と技術及びイノベーションを目指す「商品化エンジン」の2つを持つ。ユーザー、アプリケーション、プラットフォーム、インフラストラクチャの4つの層について研究エンジン、商品化エンジンそれぞれのアプローチから研究を進めている。
研究テーマとして、即ビジネスに直結するものだけでなく、例えば2052年に人口が90億人、70%の人間が都市で暮らすと予測されている中で、どんなアプローチができるのかについての研究も行う。
「ADiWa」と呼ばれるプロジェクトでのSAP Researchの関わり方を例にあげると、ビジネスデータ、動画音声ストリーム、ソーシャルネットワークなどから生まれるデジタルデータは、ログファイル、監視ビデオなどによって10倍に増幅する。それにRFID、スマートグリッドなどInternet of Things(IoT)が加わることで1000倍にも増大することになる。
「このデータの爆発的な増大の中で、構造化されたビジネスデータであるプライマリソース、構造化されていないセカンダリソースという2つのデータをどのようにうまく集約し、分析し、付加価値あるサービスとしていくのか。それを実現する技術とはどんなものかを研究する」
こうした研究成果の一つが「SAPヘルスクラウド」だ。グローバルなクラウドベースのプラットフォームを作成し、ヘルスシステムのスピードや効率、効果などを大幅にあげる。その結果、病気が爆発的に感染する事態(パンデミック)が起こっている際に、リアルタイムで病気の発生を記録していくことで、早期の対策構築に役立てることができるのだという。
世界的な課題であるエネルギー対策としても、パートナーとともにスマートグリッドのためのインフラ構築を行い、計画されたエネルギー消費、実際の消費を記録し、効率的なエネルギー消費を模索するプロジェクトも行っている。