生前のスティーブ・ジョブズが「自分のメルセデスベンツを、アップルのキャンパスにある障害者用のパーキングスペースに駐めていた(ことがあった)」ことは、わりと広く知られた逸話だと思う。そのベンツは昔も今も高級車の代名詞のようなブランドだが、80年代なかばに初めて「Cクラス」のモデルを投入し、ブランドの威力を活かしたトップダウン式の大衆化に乗り出した。
いっぽうトヨタは、ローエンドの「カローラ」シリーズで手にした成功を足がかりに、「ちょっと上」のカムリで米国市場のボリュームゾーンを手中に収め始めたころだったかもしれない(競合には、ホンダのアコードやフォードのトーラスみたいな、やはりよく売れたクルマがあったように記憶している)。

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アップルのMacBook Pro(Retina Display)がメルセデスのSLシリーズみたいなものだとすれば、iMacやMacBook Air(それになんといってもiPhone)はCクラスに相当するだろう。対するビジオの場合、低価格の薄型テレビはさしずめカローラ、そして新たに発表したWindowsパソコンはカムリといえようか。
いずれも数の力を梃子にしながら、トップダウン式で市場を拡大するとアップルと、ボトムアップ式で付加価値のより高いセグメントに進もうとしているビジオ——「アップルと競合するつもりはない」「そういうセグメントを狙ってはいない」とビジオのCTOは発言しているが、価格設定の線引きなどいつでも変わることを考えれば、両社がぶつかることがあっても一向に不思議はない。
いっぽうで、過去に大成功への鍵をいちどは手にしたように見えながら、結局消えていったパソコンメーカーも少なくはない。パッと思い浮かぶところでも、90年代のパッカード・ベル、2000年代のゲートウェイといった事例がある。ビジオにはテレビ業界での実績——サムスン電子、LG電子、ソニーといった大手を相手に生き残ってきた実績がある。
また、過去の成功体験が逆に仇となって、状況が変化するなかで適切な対応策、適応策を講じられずに苦境に陥ったノキアやRIMのような例もある。
IT産業の王様として君臨したパソコンは、モバイル端末に主役の座を取って代わられた。縮小均衡へ向かう可能性の高いパソコンの世界でも、ビジオはHPやデル、エイサー、サムスンらを相手に勝ちを収められるのかどうか。
ひとつはっきりしているのは、消費者が最終的な受益者となりそうな可能性が高いことだろう。イノベーションが停滞気味の市場で、新たに競争が活発化し、製品の競争レベルも上がり、選択肢が増えるのだから。
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