レンタルサーバ事業者のファーストサーバが顧客のメールおよびウェブデータを消失した問題で、企業はデータを自ら保持するのか、社外に預けるべきか、あるいは外部の事業者に預けた上で自社でもバックアップを取るか、3つの選択肢に改めて揺れる状況になってきた。
「外部にデータを預ける」という意味では今回問題になったレンタルサーバといわゆるパブリッククラウドに一定の共通点があるものの、技術面に詳しい関係者からは、レンタルサーバとクラウドを同じものとして扱うのは意味がないとの意見も聞こえる。
レンタルサーバもパブリッククラウドも100%の安全性は保証されていない(皮肉ながら、ファーストサーバは自社サイトで100%を明言していたが)点では同じだが、両者の技術的な違いがある場合はそれを理解しておく必要がある。ちなみに、Googleも過去にGmailデータを消失しかけたことがあり、テープバックアップからの復旧で対応したことがある。
このあたりについて、Google Appsにかかわるビジネスを展開する日本技芸の御手洗大祐社長に聞いた。
レンタルサーバとクラウドは技術的に異なるものの・・・
ファーストサーバの障害は、基本的にはオペレーションミスの問題だと考えています。レンタルサーバ事業はコスト面で厳しく、規約上も自己責任が強調されていることが多いため、本来は補償の面を確認せずに重要な情報を置くのは危険。ユーザー自身がレンタルサーバに置く情報についてアセスメントを行う必要があります。
日本技芸の御手洗大祐社長
「クラウド」の概念そのものがあいまいであることも認識しておくべきです。レンタルサーバ事業者のファーストサーバですら、ホームページ上で「クラウド」とうたっていたといわれています。
技術的には、レンタルサーバは文字通りサーバ貸しですが、クラウド(IaaS)では物理的なインフラを仮想化し、論理的なサーバ環境に分割してサービスとして提供するものですので、違っています。
一般に、例えばGoogleのパブリッククラウドのサービス環境では、1つのファイルを複数に分割して保持し、それらのファイルを世界に分散して複製・保持する形式になっているといわれています。ただ、こうした仕組みの安全性を担保するのはオペレーションでもあるため、システム単体のみを評価して安全とは言い切れないでしょう。
今回の件について、クラウド環境を利用するユーザーの多くも「オペレーションミス」との見方をしています。重要なデータについては何重にもバックアップを取らないといけないということを再認識しました。とはいえ、社内でデータを管理するほどコストを掛けられない企業も多く、バランスの問題といえます。
それを理解して、信頼できる外部事業者を選ぶ、というのが今のトレンドだといえます。
ここまで見ると、レンタルサーバとクラウドは仕組みとして違っており、同じものとして扱えるものではないことが分かります。
一方で、ユーザーから見て「他人にデータを預ける」という意味では同じであり、「障害でデータが消失する可能性がある」という面でも同じといえるでしょう。重要なのは、今回のトラブルに関する経緯を明確化し、業界全体で同じような障害が起こらないような取組みを進めていくことだと思っています。
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