アップルが繰り出してきたこの攻撃に、「そうはさせまじ」とグーグルが仕掛けた反撃がNexus 7の投入ということだろう。
ハードウェアを原価(以下)の値段で配り、アップルの影響力を低下させるというこの「無力化」「非武装化」の施策は、グーグルにとって「守り」と「攻め」の要素を併せ持ち、さらに「目の上のたんこぶ」であるアマゾンへの意趣返し(あるいは「威嚇」)にもなる。それこそ「一粒で何度も美味しい」うまい手なのだ。それと同時に、もし期待通りに進まなければ、自らの身の安全も危うくなるという「トモエ返し」のような大技といえるかもしれない。
今後の市場見通し
映画、テレビ番組、音楽などの「メディア消費」が中心となる7インチ前後のタブレット端末をめぐる争いの現状ならびに短期の見通しは、次の図のような感じになる。
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どう考えてもアマゾンがこのまま指をくわえて見過ごすとは思えない。すでに「夏中にKindle Fireの新モデルを出す」という噂も浮上しており、また「もっと大型画面の新しいモデルも用意が進んでいる」という話もある(註7)。
そうしてまた、これまでのように「のんびり静観」とはいかなくなったアップルが、このNexus 7登場を迎え撃つかのように、いよいよ小型iPad(もしくはより大型のiPod touch)を秋にも投入してくる……今のところは、そんな見通しがほぼ主流のようだ。
たとえば、アップル番としてすっかりポジションを確立した感のあるアナリストのジーン・マンスターは、Nexus 7の発表後に出演したBloomberg TVで次のような見通しを示していた。
曰く、「アップルが300ドル以下のタブレット——『iPad mini』を出してくる。またアマゾンは近々、新しいKindle Fireを投入するが、この価格設定を149ドルまで下げてくる」(註8)
なお、この価格設定について、Darling Fireballのジョン・グルーバーは249ドルを予想。また、Asymcoのホレス・デディウは製品の位置付けについて「むしろiPod touchの新型、最上位機種」とNew York Timesにコメントしている(註9)。
ここでのポイント(複数の指摘に共通する点)は、アップルがiPodで成功したマーケティング戦略を踏襲し、「タブレットの分野でも市場の独占を狙ってくる」という点だ。つまり、iPadの最上位機種(Wi-Fi版で699ドル、LTE版で829ドル)からiPod touch(現時点で8GB版が199ドル)までの品揃えで一挙に市場を制圧、携帯音楽プレーヤーの場合と同様に8割を超える市場シェア(北米市場)を手に入れる、というシナリオがあるのかもしれない。(次ページ「大戦の巻き添えを食う『その他の関係各社』」)
註7:Kindle Fireの新機種の噂
Amazon's Kindle Fire 2 Could Debut in July With a Nexus 7 in Its Crosshairs
註8:アップルの「価格設定の階段」
July 10 (Bloomberg) -- Gene Munster, an analyst at Piper Jaffray Cos., talks about the possibility that Apple Inc. will make a smaller iPad and the company's business strategy. He speaks with Cory Johnson on Bloomberg Television's "Bloomberg West." (Source: Bloomberg)
Smaller IPad 'Right Move' for Apple, Munster Says
ジーン・マンスター説が現実になるとすると、アップル製タブレットの価格設定は次の通りになる。これまでの例を参考にすると、ほぼ妥当なところだろう。
新型iPad:499ドル〜
iPad 2:399ドル
iPad mini:299ドルないしは249ドル
註9:ホレス・デディウのコメント(NYT)
Horace Dediu, a blogger and independent analyst, thinks Apple is interested in a seven-inch tablet because lighter, smaller devices are better suited, in many situations, to media, especially books. For activities like typing e-mail, Mr. Dediu said, the larger iPad would probably have an edge.
To emphasize the new device's media-playing functions, Mr. Dediu suggested, Apple could even position it as a next-generation version of the iPod Touch, rather than as an "iPad mini," as bloggers have called the product.
なお、この記事には「9.7インチのiPadでは、女性用のバッグに入れて外出……というのはちょっと苦しい。7〜8インチだったら、それも苦にならなくなる」という女性視点のコメントも見られて興味深い。