Google Walletのサービスが拡充された。もともとは、MasterCard及びCitibankとスタートしたモバイル決済サービスであるが、これからはVisa/Master/Amex/Discoverから発行された全てのクレジットカード及びデビットカードがサポートされるようになるという。
しかしながら、このサービスはNFC技術に基づいたサービスであるため、NFCをサポートするモバイル端末が増えることがまだ課題としては残る(ただし、これらは今のところ米国に限った話)。
こうしたサービスもバックエンドで支えるのはクレジットカード会社や銀行であったりするが、ユーザーエクスペリエンスを支えるのはデバイスやアプリケーションを提供するプレーヤーである。Google Walletの場合にはGoogleということになる。
そして、InformationWeek誌が、このGoogle Walletの最大のライバルとして掲げているのはPayPalであって、トラディショナルな金融プレーヤーではない。
新しい金融サービスのチャレンジ
こうした金融サービスの革新へ向けたチャレンジは、モバイル決済に留まらない。
先日、口座開設受付を開始したSimpleという金融サービスがアメリカにある。提供するサービスは預金や決済だったりするので銀行と変わらないが、バックエンドの勘定処理は提携する銀行に委託し、自らは銀行ライセンスを持っていない。
つまり、銀行ではないのであるが、フロントエンドの商品開発とサービス提供のみを自らのブランドで担う。
一方、イギリスでは、Marks & SpencerやVirginのような消費者へのブランド認知が非常に高い企業が、銀行業に参入している。Marks & Spencerは、HSBCとの提携によってサービスを実現し、VirginはNorthern Rockという破綻した銀行を買収することで自ら乗り出す道を選んだ。
こうした新しい動きに共通するのは、旧来の銀行や証券会社が持つ金融サービスのイメージを払拭し、生活者の目線で再構築しようというものである。それ故に、新規に参入するプレーヤーは、ベンチャー企業であったり、リテーラーであったりするのである。
モジュール化からエクスペリエンスへ
金融サービスは分業化が進み、商品の製造と流通が分離した。例えば、保険商品は、かつては保険会社が作って保険会社が売るものであったが、今は、それを銀行が販売したりする。そして、商品の選定や販売にあたっては、企業系列を超えた品ぞろえが行われることもある。
新手のプレーヤーによる金融サービスのイノベーションは、多くはこの金融ビジネスの分業やモジュール化の流れをうまく活用し、バックエンドの商品提供を既存のプレーヤーに任せ、フロントエンドの流通・販売の部分で工夫をしているケースが多い。その場合も、単に与えられた商品をそのまま売るのではなく、商品性にも何らか付加価値を加えている。
ただ、一方で、バックエンドを自由に変えられない以上、サービス内容や商品設計には、常に制約が付きまとい、コスト面での自由度も限られることとなる。
さて、金融サービスのイノベーターによるサービスが、こうした制約を乗り越えて、どこまで金融サービスの概念を変えることが出来るか楽しみである。次々とこれまでにないユーザーエクスペリエンスを実現してきたAppleも、そのデバイスの部品はサードパーティのものである。
しかし、フロントエンドからバックエンドまで一貫したエクスペリエンス設計が出来れば、これまでにないサービスを実現できることは実証されている。金融サービスにおけるAppleが待ち望まれる。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。