仕事柄、CIOや情報システム部長、IT企業の社長といった方々とお会いすることが多い。
そうした方々から最近、「経営に対してITをわかりやすく説明したいのだが、何かいい本はないか?」という問い合わせをしばしば受ける。
この問いを受けたときは決まって「ドキっ」としてしまう。そして、これも決まって「ありません」と答える。
なぜ、ドキッとするのか。
一つには、自分自身、この感覚がよくわからないからだ。僕が会ったことのある経営層の方々だけがそうなのかもしれないが、こちらの感覚では「この人たちは実はわかっている」と感じることの方が、むしろ多い。だから、ITのエグゼクティブが、経営者の方々が、何がわからないと言っているのか、僕自身、実はよくイメージできていないのだ。
考えても見てほしい。いっぱしの企業で、経営を務める程の人である。
ほぼすべての人が、聡明な方々である。ITのツボくらい、ご理解されていると思うべきだ。それくらいの、見識と知恵は皆さん持っていらっしゃる。
もう一つ。それは、ITのことをわかりやすく説明した本というものは、自分でもそれなりに探してみたつもりなのだが、今のところ見当たらないからだ。「ITとは、企業の血液だ」とか、「ITとは神経系統だ」などと記述している本に出会ったことがあるし、そういった論調で必要性を語られることも多いような気がする。
この論調から読み取れるところは、「不可欠なものだけど、脳や筋肉じゃないんだな」と感じる程度で、わかったのだか、わからなかったのだか、よくはわからない。自分に照らし合わせてみると、正直、血液のことも神経のこともよく知らなかったりするので、それ以上の実感は持てない。
話をもとに戻そう。自分のことを自分で言うのも気が引けるが、経営の方にITの話をするのは、上手な方だと思っている。特に秘訣というものがあるわけではないが、気にかけているのは、極力ハキハキと響く声でゆっくりとしゃべるようにしているという「プレゼンテクニック」上のことと、極力ビジネスのコンテキストで話すように心掛けているという二点だ。

経営者とは、言わばビジネスのプロだ。一方、企業におけるITは経営の一部である。実際のところ、経営のプロが果たして、経営を構成する一部をわからないことがどれだけあるのだろうか。わからないということはないと思っている。
ただし、ITは急激に発展し、変化しているため、間違った解釈をしてしまっていたり、自分の会社の情報システム部門の人達に「不信感」を抱いてしまっていたりする方には、今までの筆者の経験上、出会ってきた。
例えば、ITの値段の付け方になじみがないので、「そんなものは俺がやれば、実はうまく、安くいくのではないか?」と内心思っていらっしゃる方がいたり、情報システム部門の人たちの情熱にほだされて、大規模投資案件にゴーを出したはいいが、惨憺たる結果で終わってしまったりという経験があるため、「お前達は何を言っているかわからない。わからないものに対する投資の承認は行えない」とおっしゃっている方は、結構いらっしゃる。前者は情報システムを甘く見ているということであり、後者は情報システム部門への不信感であろう。
本稿では、この「甘く見ることなく正しい理解を促進する」ことと、「情報システム部門の人たちへの不信感を払拭する」ことをテーマに、僕が20年にわたり経験してきたことをベースにしながら、解きほぐしてみたい。
以前、筆者はZDNet Japanで「部長シリーズ」という会話形式の連載を持っていたことがある。今回は対経営者向けということもあり、「副社長シリーズ」と銘打って、前回と同じように会話ベースで進めていきたい。
では、次回からは副社長にご登場いただこう。
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宮本認(みやもとみとむ)
コンサルティング部門マネージング・パートナー
大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo1/No2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。