「あるある、あるよ、ホストじゃないって感じの意味だろ?」
「そうです。まぁ、概ねあってますし、副社長としてはそれくらいご存じならば十分だと思います。そのオープン系が台頭してきたんですよ。イメージにすると、それまではコンピュータって『プレタポルテ』の世界でした。これが『オートクチュール』の世界に入ったって感じかもしれません」
「宮本君……」
「はい」
「私が時計やらスーツやらファッション全般に興味があるからって、一生懸命あわせようと例を考えてくれるのは嬉しいんだが、たぶん、それ、逆だと思うぞ。『オートクチュール』がオーダーメードで、『プレタポルテ』が既製品だよ」
「えっ!?」
「まぁ、いいよ。で、それがどういう意味なわけ?」
「いずれにしても、従来のホストコンピュータは非常に高価でした。だから、コンピュータの能力、あ、これは『速度』と『容量』ですね。非常に高価だったんですが、『速度』と『容量』にはものすごく制約があったんですよ。30年前の部屋一杯のコンピュータが、今のPCよりも速度が遅くて容量が小さいんです。だから、先ほどオンラインで伝票を待っているっていったんですけど、コンピュータはダイヤ並に高価なので、チビチビ使っていたんですね。みんな、オンラインとバッチって言うシステムの処理方式を使い分けていたんです。バッチっていうのは、まとめて処理するってくらいの意味なんですが、まとめて処理をするバッチの方がコンピュータの能力をフルに使いやすいものですから、バッチ中心の処理方式を中心において、システムの設計をしたりしてたんですよね」
「へぇ、バッチって聞いたことあるよ。『バッチが終わりませんでした!』とか」
「給与計算なんかは、同じ処理を社員分だけやるので、未だにバッチ中心ですよね。このバッチ処理って、今となっては本当に厄介で、おかげでシステムを複雑にしているんです」
「なるほどねぇ。古いってのは、単に箱が古いとかだけじゃなくって、設計が古いって意味もあるんだな。でも、バッチ処理でどうして複雑になるの?」
「お、するどい。それを説明するには、データベースの説明をしなければいけません」
「じゃ、してして」
「伝票を台帳に登録する。この台帳が、言うなればデータベースなわけなんですが、我々の感覚では、システムってソフトウェアとハードウェアって感じを持つよりかは、データベースの塊って感覚の方がより近いんです」
「は?」
「多くのシステムは、とどのつまり、入力データをデータベースに更新して、そして、データベースのデータを使って計算や集計をして、帳票などを作るってことをやっています。そういう意味で、データベースが肝なんです。ですが、バッチだとこのデータベースを順番に更新しなければなりません。そのために、多くの手順や『中間的なデータベース』——僕たちはこれを『ファイル』って呼んだりします——を作るといった手順を踏みます。これだけならいいんですが、ここに『追加開発』や『改修』が入ってくると、いろんなプログラムやファイルを建て増ししていきます。これが、ちゃんと資料に記録されているならまだいいんですが、担当が変わってしまったり、プログラムを作るときにコピーしてしまったり、それを記録していなかったり、記録が間違っていたりと、小さな出来事が積み重なると、『わからない』状態が生じ始めます。それが、10年、20年と積み重なると、『わからない』ことだらけの、多くの手順を踏む……すなわち複雑なシステムが出来上がるわけです。それを『建て増しを繰り返して迷路のようになっている温泉旅館』って形容する人もいますが、まさにそんな感じです」
「要は、複雑に作ったものを、更に複雑にしてるってことね」
「あ、そうですね。話を戻して、ここでオープン系の話に戻ります。オープン系の時代になり、コンピュータが安価で手に入るようになった。そうすると、やりたいことが出てきます。それは何かと言うと、『データベース更新を極力オンライン化する』ってことです」
「うん、そうだね。私もそうしたい」
「そこで出てくるのが、ERPです」
「え?」
「ERPです。え、何か?」
ITを体系的に理解する:ITの歴史は「伝票・台帳・帳票の進化」 - (page 4)
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