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ITを体系的に理解する:ITの歴史は「伝票・台帳・帳票の進化」 - (page 5)

宮本認 (ガートナー ジャパン)

2012-09-04 12:00

「イメージと違うんだ。ERPって、ひとつで何でもできちゃうとか、会社全体のシステムとか、業務改革の道具とか、そういう説明を受けていたような気がするんだよ」
「まぁ、どれも間違いではないと思いますが、正解でもないですね。以前、グランドデザインの時に申し上げているかもしれませんが、ERPって、所詮は伝票、台帳、帳票です。伝票、台帳、帳票がある業務にしかとって代わることができませんし、企業全体のITがそれだけのはずがない。加えて、伝票、台帳、帳票は既にホストコンピュータとオンラインシステムで電子化されていますから、劇的に変わったオンライン化の後には、そうは業務改革効果なんて出ない。ERPを入れて業務改革ってのは、供給側のマーケティングメッセージですね。実際、多くの企業でそんな効果なんて出てないでしょう。一番大きいのは、ホストコンピュータの時は、オンラインで伝票を入力していても、コンピュータの能力に限界があったので、オンラインで更新しきれなかったものを、オンラインで更新しきれるようになったってことでしょうね」
「なんだぁ、そうなんだ……なんか、納得」
「あぁ、それは、良かったです」
「でも、じゃ、みんなどうしてERPを入れたがったわけ? 業務的な効果なんて、本当のところないんでしょ?」
「それは難しい問題で、それだけで論文の一つくらい書けるような気がしますが、ものすごい端的に言うと、ホストコンピュータの面倒を見ている情報システム部門の人たちが何かをやろうとすると、ホストコンピュータは複雑なシステムなので非常におカネがかかることになってしまい、ユーザーや経営は我慢ならなかったんでしょうね。これをきれいに、シンプルにしたくて、当時流行っていたERPを使い、経営にとって効果があるって『レトリック』を用いた。こういうことだと思います」
「なんか、車を買い替えるための言い訳に似てるな。本当は、単に新しい車が欲しいのに、古くなって故障がちになるし、家族が増えたから買い換えようって言っているようなもんだ」
「あ、副社長、それ頂き。そんな感じです。ここで、きちんと正直にいろいろ話した企業と、そうでない企業の差がついたのは事実です。先ほどの『目的の進化』のところでお話しした、迷走した企業と、そうではない企業での差が決定的についた点ですね」
「ふぅん、そうなのか……」
「ここを正しく理解して入れた企業と、そうではなかった企業では、今、大きな差がついているっていっても過言ではないですね」
「どういうこと?」
「ERPとは、言うなれば、データを集める道具です。業務改革の武器として生まれたものではありません。『経営者に正しい業績情報をよりリアルに近いタイミングで提供するためにERPを入れる』って導入した企業は、安価にERPを導入し、実際に役立つ業績情報を提供できるようになっています。一方で、ERPを使ってBPR(業務改革)って言うような旗を掲げて導入した企業は、伝票は既に電子化されている状態から始めたものですから、今の業務を楽にするという観点であったり、今の業務から効率的に退化させるわけにはいかないってことだったりして、結局はいろいろな機能を積み増して導入することになり、おカネもものすごくかかってしまった。本来的には安価でシンプルであるべきだったものが、高価で複雑なものをまた作ってしまったってことですね」
「考えさせられるなぁ……」
「どういうことですか?」
「要はさ、ERPをERPらしく使うってことを言ってきた情報システム部長は、ある意味聡明でいいんだ。けど、ERPをERPらしく使うのではなく無理して使うってことを提案してきた情報システム部長は、そう言わないと社長がウンって言わないから、そうしたわけだよな。そういう無理をさせる根源は、投資対効果にこだわりすぎる社長にも原因があるんだよね」
「副社長、深いですね」
「ITをITらしく使うってことだよ。言うは易し、行うは難しって感じだわ」
「いいこと言いますねぇ、副社長。ここのあたり、経営とITの関係を考えるときに、すごくややこしいテーマなんですよね。非常におカネがある企業であるならば、投資対効果をゆるく考えて『まぁ、やってみるか?』的に導入することもできるでしょう。一方、余裕がない企業であるならば、投資対効果に厳密にならざるを得ず、多少無理した使い方をせざるを得ない状態になる可能性が高くなります。また、ここで今お話しした企業の財力と費用対効果のスタンスの関係は、『にわとりと卵』の話でもあり、非常に複雑です。この議論は、いうなれば、ITに何を求めるべきで、何を求めてはいけないのか、という議論に行きつくのですが、このあたりは、次回以降、一緒に考えましょう」
「何言ってるんだ。宮本君が考えて、報告してちょうだいよ」
「……。まぁ、ここで一つの歴史は終了です。ERPで『伝票』『台帳』『帳票』の世界は、ひとつの完結を見ます」
「はは、簡単だったな」
「いいえ、簡単にしてしゃべったんです。ですが、ERPというのが、ひとつの完成形であるという考え方は重要ですね。ここは、今後はIT的にあまり進化の要素がない」
「どうして?」
「後でも述べるかもしれませんが、ITというのは、多くの場合、コンピュータの『速度』と『容量』の進化を受けて、『統合』することで進化しています。ホストコンピュータと端末とネットワークを統合する、販売管理と生産管理を統合する、更にそこに財務・経理を統合するって具合にです。そう考えると、ERPはもう統合するものがあまり残っていないんですね。CRMやPLMとか、発展中のものと統合するっていうのはあるかもしれませんが、それはつなぐって域をあまり超えないと思います。そういう意味からも、ERPは一つの完成形で、ここがきれいに入っていれば、あとは、違うことを考えればいい」
「違うことって?」
「話を、バブルに戻しましょう」

次回予告:文書の進化

 ITの存在意義——ゼネラル・エレクトリックは、伝票を集計して帳票を作ることからITの活用を始めました。そこから始まったITの進化、第3回のサマリーを再掲しましょう。

第3回 サマリー

・ITの進化は『伝票・台帳・帳票の進化』と『文書の進化』に分けられる
・伝票・台帳・帳票のIT化は、伝票をまとめて処理するところからスタートし、ホストコンピュータを使ったオンラインシステムに進化した
・このころからITを競争優位に使おうという企業が出始め、実例として差がつくことが生じ始めた
・そして、オープン化という技術革新によってコンピュータがより安価になると、伝票・台帳・帳票系のシステムは、ERPという一つの完成形を見た
・ただし、ERPの活用に関しては、ITを競争優位で使おうという人間の判断のところで、幸運な企業とそうではない企業を分けることとなった


 次回はサマリーでも提示した『文書の進化』がテーマです。時代はバブル、ギラついたおじさま、おしゃれなディスコ、太い眉毛のお姉さん……その他に一つ、思い出してほしいものがあります。それは「ワープロ」です。

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宮本認(みやもとみとむ)

ガートナー ジャパン株式会社

コンサルティング部門マネージング・パートナー

大手外資系コンサルティングファーム、大手SIerを経て現職。16業種のNo1/No2企業に対するコンサルティング実績を持つ。ソリューションプロバイダの事業戦略、組織戦略、ソリューション開発戦略、営業戦略を担当。また、金融、流通業、製造業を中心にIT戦略、EA構築、プロジェクト管理力向上、アウトソーシング戦略プロジェクトの経験も多数持つ。

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