1911年に三社が合併してComputing Tabulating Recordingが誕生してから、米IBMは創立101年目を迎えている(International Business Machinesに社名を変更したのは1924年)。
「長きに渡って成功してきたIBMだが、その中で一つの真実が見えた。(ビジネスが)永続的なインパクトを与えたいなら、長期的な視点を持つ必要があるということだ」とパルミサーノ氏。長期的な視点は、リーダーが必ず持たなければならない資質だとする。
「安定でも安全でも、そして保守的でもいけない。(長期的視点の)見返りはパワフルなのだ。根本的な質問を自分に投げかけなければ。企業が創設者よりも長生きするには、カリスマとリーダーシップを混同してはいけない。リーダーは、自分がいなくても成功し続けるようにしなければならないのだ」(パルミサーノ氏)
「トーマス・J・ワトソン(米IBM初代社長)は、永続する企業文化を作った。製品やサービスが成功するだけではだめで、価値観がいかに重要かを示したのだ。価値観とは、永続する特性やアイデンティティを示すもの。組織のものの進め方を織り込んでおり、価値観に基づいて(ビジネス上のさまざまな)選択肢をチョイスしていくのだ」
また、企業は時に「単一の顧客か、あるいは社会か」などと、相反する要素に板挟みになることもある。パルミサーノ氏は「どちらを優先したらよいだろうか」と参加者に疑問を投げかけた。
しかし、答えは「どちらかを選ぶのは間違っている」だ。「両立させるのだ」(パルミサーノ氏)
相容れない利害では妥協してはならず、両者が交差する点を見い出す努力をすべきだという。また、交差点の作るためのイノベーションを実現しようと訴えてもいる。
コモディティ化の圧力には
企業の長期的な繁栄では、コモディティ化への対応も重要になる。このテーマを語るのに、IBMの会長ほど適任の人物はいないだろう。
IBMは業績が悪化した1990年代、ルイス・ガースナーという新しいリーダーのもと、血を入れ替える改革を断行した(参考:IBMの変革)。よく言われるように、ハードウェア主体のビジネスから、ソフトウェアとサービスへと転換させたのだ。
ソフトウェアとサービスを強化する企業買収——たとえば米PricewaterhouseCoopersのコンサルティング部門の買収などを手がける一方で、1990年代の終わりにはネットワーク部門をAT&Tに、2000年代に入ってからもHDD事業を日立に、PC事業をレノボに、POS事業を東芝テックにそれぞれ売却している。
コモディティ化するビジネスからの撤退は、大ニュースとして世界中を駆け巡った。特に当時も収益を上げ続けていたPC事業の売却は、衝撃的とさえ言えるものだった。この撤退は、パルミサーノ氏が決断したものだ。
パルミサーノ氏は「大事なのは、何をやめるのかということだ」と言う。
「製品、アイデア、サービス——成功したものには、感情的な愛着がある。パソコンもそうだ。パソコン(事業の拡大)は、日本IBMも非常に貢献したし、業界を作り替えることにもなった」とパルミサーノ氏。
しかし、「PCは、IBMの中心をなさない、テクノロジ業界の中核をなさないと気づいた。百数十億ドル相当が消えることになるため、批判にもさらされた。しかし、今やもう批判する人はいない」と、謙虚に振り返った。