グローバリゼーションが明らかにしたことは、社会格差の拡大もグローバルに進みつつあるという事実である。開き続ける1%の富裕層と99%の一般人たちの格差。これは、アメリカにおいても中国のような新興国においても同様の問題として浮かび上がってきている。
格差を象徴する金融サービス
アメリカでは、「アンバンクト(unbanked)」とか「アンダーバンクト(underbanked)」という、日本では聞き慣れない言葉が良く使われる。これらは、本人の意思であるかどうかは別として、銀行に口座を持っていなかったり、あるいは十分な金融サービスを享受できていない人たちを指す。
9月に行われた調査では、実にアメリカの家庭の4分の1が十分な金融サービスを受けていないことが明らかになった。当然のことであるが、金融資産を持つ顧客へはより良いサービスが提供され、金融資産を持たない顧客へのサービスは悪くなる。つまり、格差の問題は、金融資産の多寡と享受できる金融サービスに端的に表れる。
テクノロジが実現する代替金融サービス
しかし、持たざる者の数が増えてくると、その持たざる99%を対象とした新しいサービスの開発が活発化する。実現するか判らないが、「ウォールストリートを占拠せよ」運動からの派生として出てきた「Occupy Bank」構想は、まさに99%の人たちのための銀行を作ろうという議論を行っている。
それ以前からも、テクノロジの活用によって、既存の金融サービスの代替サービスが提供されていた。例えば、PayPalやWesternUnionのような低価格の決済送金サービスや、貸し手と借り手を直接結び付けるソーシャルレンディング、あるいは、個人から少額のリスクマネーを集めるクラウドファンディングなどだ。直近では、SimpleやMovenbankのように、カスタマーエクスペリエンスを重視した金融サービスが立ち上がろうとしている。
日本に金融イノベーションは必要ないのか
前回説明した通り、日本の家計の金融資産は減り続けている。リーマンショックの直撃を受け、そして「アンバンクト」層や「アンダーバンクト」層が増加しているアメリカは、それでも金融資産は増加しているのにだ(特に増えているのは富裕層1%かもしれないのだが)。
確かに、日本においては、欧米のような金融サービスに対する不信感というものはない。しかしながら、減り続ける家計の金融資産が示す通り、金融サービスが生活者の不安に応えてくれていないことは事実である。生活者が現預金にポートフォリオを偏重させるから悪いのだという議論もあるが、そのバランスを変えていくことも含めて金融サービスとして考えるべきだろう。
代替手段の登場が金融サービスを進化させる
change.orgというサービスがある。社会に対する働き掛けを行うためのオンライン署名に特化したSNSだ。change.orgは自らを“ソーシャルアクションプラットフォーム”と呼んでいる。
このサービスは、Bank of Americaがデビットカードの新しい手数料の導入を行おうとした際に、30万人の反対署名を集めて、その導入を断念させたことで知られている。change.orgが達成する目標は、一つ一つが独立したものではあるが、生活者が組織的に何かを実現するための一つの枠組みを示したと言える。
日本にもAqushのようなソーシャルレンディングや、ミュージック・セキュリティーズのようなクラウドファンディングのように、ソーシャルパワーを活用した金融サービスは立ち上がっている。ただ、こうした代替サービスが我々の生活に大きなインパクトを与えるにはまだ至っていない。
生活者の不安を解消し、社会の発展に役立つ金融サービスを作り上げるには、もっともっと金融領域のイノベーションが必要だし、代替手段の出現が既存の金融サービスの向上にも繋がって行く。自分もこの業界にいる以上、それを推し進めていくために努力するのみである。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。