アーティストとしてのDNA
これも周知の事柄だが、ジョブズは2〜3年先までの製品開発の方向性を定めて亡くなったといわれている。また、かつて「iPodを殺すために自らの手でiPhoneを作った」頃とは状況もすっかり変わり、今のアップルにはiOS関連のビジネスを守るべき理由はたくさんある。その一方で自らそれを殺そうとするような動機付けは、少なくとも今のところは見あたらない。
そんなこともあって今、一番気になっているのは、はたしてジョブズが「自己革新につながるような何かの種をアップルに埋め込んで死んだのか」という点である。この答えが明らかになるまでは、もう何年か時間がかかることだろう。
最後に。
ジョブズが生前に口にしていた有名な発言のひとつに、自分のヒーローであったボブ・ディランに関するものがある。
ボブ・ディランは私の「お手本」のひとりで … (彼のような)本物のアーティストなら、人生のある時点で「このまま同じ一つのことを繰り返し続けていても、残りの人生をやり過ごせる」と必ず気付くはずなんだ。ただし、他人からはどれほど成功しているように見えても、同じことの繰り返しでは自分で「立派にやっている」とは思えない。アーティストの本当の価値が分かれるのは、そういうことに気付いた時だ。失敗を恐れずに新しいことに挑戦していくなら、本当のアーティストだといえる。ディランもピカソも(失敗のリスクを恐れず)新しいことに挑戦し続けていた。(註11)
アップルに「数字以外の何か」まで求めたくなるファンとしては、こうした「アーティスト的気質」がアップルという法人のDNAに継承されていることを願ってやまない。さもなければ——これからも生じるであろう時々の「ちょっとした騒動」は別にして——ホーナンが口にしたような「退屈」と折り合いをつける覚悟をするしかなくなる。
(敬称略)
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註11:ジョブズのヒーロー、ボブ・ディラン
One of my role models is Bob Dylan. As I grew up, I learned the lyrics to all his songs and watched him never stand still. If you look at the artists, if they get really good, it always occurs to them at some point that they can do this one thing for the rest of their lives, and they can be really successful to the outside world but not really be successful to themselves. That's the moment that an artist really decides who he or she is. If they keep on risking failure, they're still artists. Dylan and Picasso were always risking failure.
The Three Faces Of Steve - Fortune