日本IBM イェッター社長、「なぜテクノロジーが重要なのか」を熱弁

冨田秀継 (編集部)

2012-10-31 23:04


日本IBMのマーティン・イェッター社長
日本IBMのマーティン・イェッター社長

 日本IBMは10月31日、都内でユーザーやパートナーを集めたイベント「New Era of Computing Forum」を開催した。

 本稿では同日開催された記者会見とイベントの両方に登場した日本IBM代表取締役社長マーティン・イェッター(Martin Jetter)氏の発言から、同社が訴える「コンピューティングの新時代」について解説する。

なぜ、テクノロジーが重要なのか

 はじめにイェッター氏は、IBMがグローバルで実施した経営者のインタビュー調査「Global CEO Study 2012」から得られた知見を紹介した。この調査には世界64カ国、1709人の経営者や政府高官がIBMによるインタビューに応じている。このなかで「今後3〜5年間で、自社に最も影響をおよぼす外部要因は」という質問に対して、最も多く挙がった回答が「テクノロジー」だった。「マクロ経済要因」や「市場の変化」ではなく、テクノロジーが首位となったのだ。

 しかし「例外がある」とイェッター社長は言う。回答者数の10%を占めた日本だ。日本では「市場の変化」という回答が最も多く、これに「グローバル化」「人材の変化」が続く。「テクノロジー」は第4位だった。

「グローバルな競争において、世界はテクノロジーに投資している。しかし、日本はそうではない。これが将来、不利に働く可能性がある」(イェッター氏)

 なぜ、テクノロジーが重要なのか。イェッター氏は「テクノロジーがバックオフィスからフロントオフィスに移り変わってきているからだ」と述べ、新たなチャンスがこの領域にあることを示した。

 従来、バックオフィスには、主にコスト削減と業務の効率化を主眼としてITを導入していた。IBMではそのテクノロジーが今、ビジネスチャンスを見定めるために活用されるべきだと考えている。イェッター氏もさまざまな数字を並べて、その根拠を示した。

  • 世界の携帯電話の台数は60億
  • 世界のインターネット利用者数は23億人、2017年には35億人に
  • 1日に340億のメールアカウントから1180億通のメールが送信される。2015年には1680億通に
  • ソーシャルネットワークのアカウント数は24億、2015年には39億に
  • 2020年までにネットを介して4500億のビジネス(業務)トランザクションが1日で発生

 特に最後のビジネストランザクションは、単なるネットのトランザクションではない。業務取引に関するものだけでこの数字であり「ITを使わなければ扱うことができない」(イェッター氏)ほど膨大な量といえる。

 こうした変化が引き起こすのは、データの爆発的な増大だ。ここでもイェッター氏は具体的な数字を並べてみせた。

  • 2016年までに1年間のネットトラフィックは1.3ゼタバイトに達する
  • Googleは1日に24ペタバイト以上のデータを処理
  • Facebookは1日に500テラバイト以上のデータを処理
  • Twitterは1日に12テラバイト以上のデータを処理

 こうした動向から、イェッター氏は「ITに対するデマンドは上がっていく」と見ている。バックオフィスからフロントオフィスへ、という流れは、言い換えれば顧客接点でITを役立てたいということだ。つまり、ソーシャルメディアの投稿のような社外の膨大なデータを活用して、マスのマーケティングではなく、ひとりひとりの顧客に提供するきめ細やかなマーケティングに可能性を見いだしている。

「従来のデータは数字や文字だった。しかし、今は動画や音声、機能、関数など、非常に複雑なものを扱うようになっている。現代のデータは、ある意味では新しい天然資源と言えよう。実際の天然資源は有限だが、データは無限だ。ただし、どのように活用するかという制約条件がつく」(イェッター氏)

 今年IBMは創業から101年目を迎えているが、同社が最初に開発したシステムは表計算を処理するものだったという。IBMではこれを第一世代のコンピューティング環境と位置づけている。もちろん、表計算システムは財務会計や在庫計算の効率化を支援するものとして提供された。「当時、CIOとはCFOだったのだ」とイェッター氏は言う。

 1950年代に入ると、コンピューティング環境は第二世代へと移行する。コンピュータがプログラム可能なものになったのだ。命令を駆使して何らかのタスクを実行させるシステムであり、この技術は現在のITの土台となっている。この世代は「ソフトウェアの時代」とも言えるとイェッター氏。自身のiPhoneを聴衆に披露しながら、「(現代のコンピューティング環境には)素晴らしいユーザーインターフェースがある。しかし、基本的にはソフトウェアで動いている。基本的な原理原則は同じなのだ」と訴えた。

 そして、2010年に「新しい時代の幕が開けた」とイェッター氏。2009年に開発中であることが明らかにされた「Watson」が、第三世代のコンピューティング「コグニティブ・コンピューティング(認知コンピューティング)」だと訴える。

 Watsonは2011年2月、米国のクイズ番組「Jeopardy!」で二人のクイズチャンピオンに対して勝利を収めた。文学、歴史、科学など、幅広いジャンルから出題される問題に対して、自然言語で書かれた情報の断片を分析し、微妙な意味や謎かけなども踏まえた上で、人間よりも早く、正確に解答し、最高金額を獲得した。

 Watsonは自然言語処理技術をさらに進化させるために開発されたが、その成果として、非構造化データの分析やワークロード最適化システムの設計において、重要な技術的進歩を達成したという。

 イェッター氏はWatsonを「学習可能な認知システムだ」と評した。このシステムの応用として、「学習すれば、お客様に対するサポートレベルを向上させることができる」とも言う。

 クイズに挑戦したとき、Watsonはネットにつながっていなかったという。つまり、検索した結果で回答したわけではないのだ。そのため、Watson内部に大量のデータを持つ必要があった。その上で、信頼できるデータかどうかを吟味し、ミリ秒で解答を判断する必要があったとする。Jeopardy!に挑戦したときは、Linuxが稼働するPower 750サーバを10ラック、さらに15テラバイトのメモリと総計2880コアのCPUを搭載していた。

 この日、イェッター氏は「Watsonを母体にして開発した製品を紹介したい」と述べ、垂直統合型システム「PureSystems」を紹介。「商用で活用できる初めてのWatsonファミリーだ」という。また、「最も信頼性が高い」とイェッター氏が強調するメインフレームの「System z」をはじめ、UNIXサーバの「Power Systems」、ストレージシステムの「System Storage」、x86サーバの「System x」もアピールしていた。

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