三国大洋のスクラップブック

バラク・オバマ版『マネーボール』 大統領選勝利の鍵はビッグデータの徹底活用 - (page 3)

三国大洋

2012-11-08 22:10


 今回の選挙で勝敗の鍵を握るとされた激戦州のうち、オバマ大統領は投票日前日にウィスコンシン、アイオワ、オハイオの3州を「最後のお願い」でまわった。

 この駆け足の遊説にブルース・スプリングスティーンが同行し、行く先々で歌を披露していたことは別の連載で書いた通り

 比較的年齢の高い白人ブルーカラー層に人気のあるスプリングスティーンの力を借りただけでなく、オハイオ州での集会には(そのデモグラフィーに合わせて)黒人や若者に訴求力のありそうなラッパーのJay-Zを引っ張り出してもきた。

 こう聞いて、あまりの行き届いた目配りぶりに、おもわず「計算ずくの仕業」という言葉を使ってしまっていた。

 だが、まさか本当に計算処理した結果を元に二人を選んでいたとは……。

 無論その真偽は確かめようもないが、TIMEの記事には、日々上がってくる新しいデータを盛り込んだコンピュータ・シミュレーションを「毎晩6万6000回も繰り返して、激戦州での勝率を試算していた」という陣営関係者の話もある。各地の集会で「どのアーティストを起用すると、どれくらいの票を稼げるか」などという試算は朝飯前のことだったのかもしれない。

 資金集会については、Jay-Zも妻のビヨンセとともに400万ドルを集めたパーティを9月に主催して話題を集めた。ただ、今回の選挙で両陣営の資金集めがこれほど大きな焦点となったのには、ひとつ理由がある。占拠の間は「SuperPAC」という文字を目にすることが多かったが、これは簡単にいうと、選挙資金集めに関するルールが変更されて、一部の有力者が多額の資金を提供することが可能になったことを指すようだ。

 その結果、オバマが富裕層への課税強化を打ち出していたことなどを快く思っていなかった一部の有力者から、共和党候補者へ大量の資金が流れるといった観測が早い時期から出ており、なかには「オバマを打ち負かすためなら1億ドルまで出す用意がある」と公言してはばからない人物まで出てくる有り様だった(註4)。

 そうしたことも手伝って、選挙戦の行方を大きく左右する軍資金集めに関して、オバマ陣営はかなりの苦戦が予想されていた。ところが、いざ帳簿を締めてみれば、当人たちも予想していなかった10億ドル以上もの多額の資金が集まっていた。この成功、さらには選挙での勝利の影に、とくに「ネットや携帯電話を利用した『草の根』の活動」の果たした大きな役割があった……というような話がTIMEの記事に書かれている。

 もっとも、当初から「税金を納めたがらない金持ち」の象徴、さらには「米国の雇用喪失につながるようなクビ切りをする企業経営者」の象徴としてロムニーを攻撃し続けたオバマとしては、セレブとの関係や彼らからの資金集めに注目しがちなメディアの報道姿勢を快く思っていなかった、という話を目にした覚えもある。そこから察すると、TIMEの採り上げ方もそうしたオバマ陣営の戦略に沿ったものかもしれない。(次ページ「オバマ陣営が最初に着手したのはデータ統合」)

註4:オバマを負かすためなら1億ドルまで出す用意がある

Forbesのランキングでは米国で12番目の資産家とされるシェルドン・アデルソンというユダヤ系大富豪の発言。ラスベガスとマカオ(中国)を股にかけて手広く事業を展開する「カジノの帝王」といった知られ方の人物で、また米中両国の当局と摩擦が絶えないことでも知られている。

なお、アデルソンが資産を築くきっかけとなったのが、いまは亡きコムデックスの成功と売却(1995年)。この時の買い手は皆さんご存じのソフトバンクだ。

また、アデルソンの影響力については、ロムニー候補が夏に中東各国をまわった際、一貫してオバマ大統領を支持し続けたNew York Timesの看板コラムニスト、トーマス・フリードマン(『フラット化する世界』などの著書で有名)から「選挙資金が欲しいなら、ラスベガスに行ってアデスソンに頼めばいいのに」「わざわざイスラエルまで行かなくてもいいだろうに」と揶揄されていたほど。

Why Not in Vegas? - NYTimes

また、ロムニーから副大統領候補に指名されたポール・ライアンは、実際指名の翌日に「ラスベガス詣で」をしていた。

Ryan Meets Casino Mogul and Major G.O.P. Donor - NYTimes

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