三国大洋のスクラップブック

IT・選挙・戦略:内製のオバマ大統領、外注のロムニー候補 - (page 3)

三国大洋

2012-11-22 18:06


難産だったNarwhalプラットフォームの開発

 オバマ陣営は、予備選挙がなかった分、共和党候補に比べて時間的に余裕があった。それでもIT開発が動きだしたのは2011年の5〜6月頃だった。

 パーパー・リードをCTOとして起用することが決まったのもこの頃。テックチームでは当初、開発する技術の難易度をいささか低く見積もっていたフシがあり、たとばデジタルチームやフィールドチームのメンバーが使うDashboardは、当初「3カ月くらいあればプロトタイプができる」と安請け合いしていたらしい。

 ところが、約束の8月末になっても使い物になるレベルの製品は仕上がらず……といった有り様で、そんな状態が結局今年2月あたりまで続いたようだ。

 その間、デジタルチームやフィールドチームから「テックチームを総入れ替えしろ」「今つくっているDashboardはいったん捨てて、新しいものを一から作り直させろ」といったクレームも出ていたとか。このあたり、ソフトウェア開発に付きものの摩擦かもしれない。

 リードやスレイビーらはその間、マイクロソフトでプロダクトマネージャーとして働いていた人材を引き抜くなどして開発部隊の陣容を立て直し、統合プラットフォームのNarwhalや、それにつながるDashboad、Call Tools、Twitter Blaster(後述)などのさまざまなシステムを生み出していったという。

Dashboard: The Tools You Need to Help Re-Elect President Obama

1通のメールを18のグループに送付して反応計測

 オバマのITチームが実装した仕組みやその成果について、The Atlanticは次のようなものを挙げている。

1. デジタルチーム主導で開発したメールによる資金調達プログラム

今回の選挙でオバマ陣営は、自分たちの期待を越える10億ドル超もの資金を集めた。その一部は、以前の記事で触れたような有名人主催のパーティによるものだったりもしたが、一方でオンラインでの草の根的な資金集めも大いに貢献したようだ。

その原動力となったのが、デジタルチームによる電子メールを使った取り組み。集めた金額の具体的な数字までは明かされていないが、オバマ選対本部は支持者に寄付を募る電子メールを送る際にも、対象を18のサブグループに分け、その反応を計測していた。もっとも反応がよかったグループを100とすると、最低のグループの反応は15〜20%という結果だったという。そうした結果を踏まえ、反応が芳しくなかった相手にはメール送付を停止するような機能も実装した。

また、携帯電話のSMS機能を使って支持者が寄付金を好きな分だけ寄付できる「Quick Donate」という仕組みも導入されたという。The Altanticでは「アマゾンの1クリック購入」を引き合いに出しているが、人気テレビ番組「アメリカンアイドル」などでは視聴者によるSMSをつかった投票は何年も前から実施されているから、おそらくユーザー側にも心理的な敷居が低い仕組みだったのだろう。

2. Reddit経由で投票登録した人数は約30万人

オバマ大統領が、Facebookのような一般的なSNSではなく、Redditというかなり個性の強いコミュニティでライブのQ&Aを実施した——そう聞いた時には、かなり意外な感じがしたものだ。しかし、この背景には選挙のプロたちによるデータ解析の結果、さらにはリードのようなギークの薦めもあったようだ。

TwitterでのRT(リツイート)やFacebookでのLike(いいね)の回数でも、オバマ選対本部は記録を塗り替えた。

Twitterで働いていたエンジニアは「Twitter Blaster」という仕組みを開発した。これは、オバマ選対本部のフォロアーを影響度の大小で分類できたり、居住地域(州)や特定の争点に関する立ち場などをクロスリファレンスし、相手ごとにカスタマイズしたダイレクトメッセージを送る機能も実装されていた。

Facebookを使ったマイクロターゲティングもほぼ同様で、たとえば「オハイオ州に住むデイブというあなたの友だちがまだ投票に行っていません。彼に投票するように伝えて下さい」というメッセージが、オバマを支持するFacebookユーザーに送られたりしたという。

3. テレビCM枠購入のコスト競争力で大きな差

以前の記事でも、オバマ陣営がデータ分析を有効に用いて、かなり効率よくCM枠を買っていたことを紹介したが、The Atlanticは具体的な金額を出して説明している。

放映一回あたりのコストはロムニー陣営が666ドルだったのに対し、オバマ陣営が594ドル。テレビCMの放映回数はオバマ側のものだけで55万回以上にもなったというから、相当の違いが生まれていたことになる。

この差を生み出したのは、秘密兵器の「The Optimizer」だ。オバマ選対本部のアナリティクスチームが使ったシステムで、ケーブルテレビなどのセットトップボックスから得られるデータと、選対本部の支持者データを付き合わせて、たとえば「大統領候補同士のディベートを実際に観た人たちに対しては、その後どの番組でCMを流すのが最も効果的か」といった点を割り出していたらしい。

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