アイ・ティ・アール(ITR)は、国内企業を対象に2012年10月に実施した国内IT投資動向調査の一部結果を12月5日に発表した。
2012年度(2012年4月〜2013年3月)の実績と次年度の見通しでは、2008年のリーマンショック以降に顕著となっているIT投資の低成長があらためて浮き彫りになった。
今回の調査では、経済の減速基調が続くとの見方が再び強まるなか、2013年度に向けて企業のIT予算と投資戦略がどの方向へ進もうとしているかに着目している。さらに今回、事業のグローバル化がIT投資戦略にどのような影響を与えているかについても分析した。
国内企業672社から有効回答を得ており、回答者の属性は、売り上げ規模で10億〜100億円未満が25.9%、100億〜500億円未満が29.5%、500億〜1000億円未満が11.8%、5000億円以上が9.5%。従業員規模では中小(300人未満)が29.5%、中堅(300〜1000人未満)は28.1%、大企業(1000人以上)が42.4%などとなっている。
2012年度のIT投資はプラスも伸び率は低水準
2012年度のIT予算の増減実績では、「増額した」と回答した企業は全体の25.5%であり、前年度の24.8%から若干上昇した。一方で「減額した」企業の割合も22.2%と前年度の20.5%を上回っている。「20%以上の増額」とした企業の割合は7.2%で前年度(4.9%)を上回り、総合的には2011年度実績を上回るプラス水準となったものの、大幅な成長というわけではない。2013年度の見通しでは、「増額」は22%、「減額」は20.7%で、両者とも2012年度実績を下回った。その分「横ばい」とする企業の割合が上昇し、52.3%が57.3%になっている。
企業の売上高別にIT予算の増減傾向をみると、売上高が1000億円を超える大企業では、2013年度のIT予算がマイナス成長となる見込みだ。ITRでは「産業界をリードする大企業でのIT投資の失速は、国内IT市場全体に大きなインパクトを与えると見られる」としている。
同社ではIT予算の増減傾向を指数化した「IT投資指数」を算出しており、2012年度は0.70だった。前年度の0.60よりやや上昇しており、前年調査時点での予測値の0.83と近似している。ただ、プラス幅はごくわずかであり、成長率は低水準にとどまっていることがわかる。一方、2013年度の予想値は0.43で、2012年度の実績値より下降。同社は「今後に向けて投資意欲が減退することが懸念される」としている。
ITR代表取締役 プリンシパル・アナリストの内山悟志氏
ITR代表取締役 プリンシパル・アナリストの内山悟志氏は「日本の産業を支えてきた伝統的大企業のIT投資が2013年度はマイナスと予想される一方、売り上げ高500億〜1000億円未満の企業ではプラスになっており、IT投資に意欲がみられる。かつてはIT領域で新しい要素に挑んでいたのは大企業だったのだが、大手は厳しい事業環境の下でスリム化を迫られている。いまや新興企業が取って代わっている印象があり、企業の世代交代の傾向がみられる」と論評した。
2013年度の最重要課題は「IT基盤の統合・再構築」 新技術は関心低い
主要なIT動向として全19項目を取り上げ、その重要度を尋ねた結果では、「IT基盤の統合・再構築」が3年連続で最上位となり、他の項目に大きな差をつけた。前年調査では2位だった「仮想化技術の導入」は重要度が若干低下して3位。これに対し、「ビジネスプロセスの可視化・最適化」が前年の7位から浮上して2位となった。クラウドやビッグデータ、ソーシャル・テクノロジーなどのような新技術は、中位から下位にとどまっており、いまの時点では主要な課題と認識されていないことがうかがえる。
今回の調査では、国内企業にとって主要な経営課題となっている「グローバル対応」に関する設問を新たに付け加えた。その結果、すでに海外に自社や自社グループの拠点をもつ企業は36.9%に達している。また、今後、拠点の設置を準備または検討している企業も10%に上った。このような「準備」「検討中」とする企業は、2013年度に向けてIT投資を積極的に行う意志が強いという傾向がみられる。また、海外拠点を設置している企業では、業務やシステムのグローバル規模での標準化が大きな課題になっているという。他方、海外拠点を設置済みの企業に対してIT予算の地域別の配分はどうなるかとの問いへの回答からは、売上比率の大きい国・地域にIT予算が重点的に配分される傾向があることがわかった。
ITR シニア・アナリストの舘野真人氏
今回の調査結果について、ITR シニア・アナリストの舘野真人氏は「2012年度は、国内企業のIT投資が前年度比でプラス成長を維持した。しかし、低成長の傾向はより鮮明になっており、2013年度も大きな伸びは期待できない。また、売り上げ規模の大きい企業でIT予算の減額が見込まれており、市場全体に対して金額的なインパクトが大きくなることが懸念される」とコメント。
さらに「主要なIT動向について最も重視されているのは、3年連続で『IT基盤の統合・再構築』だった。2番目は『ビジネスプロセスの可視化・最適化』だ。インフラの構造改革に道筋のついた企業が、今後、プロセスの改善に精力的に取り組むことが予想される。海外へ進出している企業では、売上高比率の高い国・地域にIT予算を振り向ける傾向がみられる。ビジネスの海外依存度が高まれば、IT予算も海外に流出することが懸念される」とも語った。
また、製品・サービス分野については「2013年度も引き続きモバイル関連項目で投資の伸びが見込まれる。ただし、2013年度に向けて市場拡大の勢いが減速する項目が目立ち、『モノを買う』ことを重点化するIT投資戦略が曲がり角を迎えている。今ある『モノ』をどう活用していくか、既存システムの統合、国内で使用しているものをどうやって海外に展開していくかといった点が注目されているのでは」と述べている。
この調査は10月22日から11月2日にかけて実施された。ITRの顧客企業や主催セミナーへの出席者、Webの専用パネルのうち、国内企業の情報システム系、経営企画系部門の役職者3000人に対してアンケート用紙による記入、あるいはWeb経由で回答を受け付けた。その結果、672人から有効な回答を得た。
今回の調査結果の全体と分析は「国内IT投資動向調査報告書2013」として、12月5日にITRのWebサイトを通じて先行予約販売を開始する。同レポートは12月25日に発刊する予定だ。
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