三国大洋のスクラップブック

ノキアの没落で若者のワークスタイルが変わったフィンランド - (page 3)

三国大洋

2012-12-29 10:00


 今、ロビオなどの成功を目にした若い人たちは、自分で会社を立ち上げるなり、そうして生まれてきた新興企業に勤めて実力を養い、能力を発揮するほうが、より生存の確率が高いと考えるようになったのだ。

 また、新たな労働力のニーズに対応・適応するための再訓練や起業に際しての援助といった、労働者に対する社会的な支援体制も比較的整っており、たとえばジョラのスタッフはノキアが提供する支援プログラム「Bridge」を利用して会社を興したという。

 さらに、高いレベルの労働力を確保できそうだと考え、新たに拠点を構える外国勢の動きもある。

 今月に入って発表された中国のファーウェイによるR&D拠点開設の動きのほかにも、CNETの記事には「(ノキア本社があるヘルシンキの隣町)エスポーに乗り込もうとしている日本のとあるモバイルゲームメーカー」といった記述もみられる。まさに「捨てる神あれば、拾う神あり」といったところだろう。

 むろん、ノキア自体も絶体絶命に違いないが、それでもかつてのような官僚主義的な側面——「なにか新しいことを始めようとすると、150人から承認を得る必要があった」「そのうちの誰かがダメといえば話がストップしてしまった」というような部分がなくなり、「はるかに動きやすくなった」という比較的想像がつきやすい変化から、「携帯電話大手になる前の、1980年代の苦境の時には、今よりずっと厳しい経営状況で、CEOが自殺するような有様だった(それに比べたら……)」など、社歴27年の財務・法務担当幹部の腹の据わったコメントまで見られ、「生き残りに向けて、まだ十分戦える」という雰囲気があることもこの記事からは伝わってくる。

アップルとグーグルに足下をすくわれた後で

 ノキアといえば、BlackBerryのRIMと並んで、iPhone擁するアップルとAndroidでエコシステムを構築したグーグルに足下をすくわれたグローバル企業の代表例といっていいだろう。

 そんな大企業という大輪の花がしぼんだ後、地面に落ちた多くの種が根付きつつある。そのなかには、iPhoneやAndroidの勢いに乗るかたちで「21世紀のディズニー」を目指すロビオのようなところもあれば、中国のスマートフォン市場という「これからの世界」で、iPhoneやAndroidに戦いを挑もうとするジョラのようなところもある——。

 ノキアを取り上げたこの記事では、エスポーの経済・ビジネス開発担当幹部とフィンランド政府の雇用・経済担当省の幹部という2人の部外者のコメントが紹介されている。それぞれ次のようなコメントだ。

「私たちは特定の企業一社にすべてを賭けるようなことはしない。生態系のなかに規模の小さなプレーヤーがたくさんいるような状況のほうが健全だ」

「市場競争力のない特定の会社を支えようというのは意味のないこと。(それよりも)新しい企業群に注目する必要がある」

 たとえば、米国でオバマ政権がデトロイト(自動車産業)を救ったようなケースは、フィンランドの政府や自治体は体力不足でできないのかもしれない。先に紹介したBloombergの記事には「来年は景気が悪化しそうなので、財政支出削減と増税をやる」という現政権の考えも記されており、「呼び水」と称した公的借金を原資とする景気刺激策とは無縁なようだ。

 上記の二つのコメントに表れた人々の心の持ちようは、フィンランド経済が意外に健闘していることとどこかで通底しているのでは——そんなことを感じた次第である。

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