三国大洋のスクラップブック

世論調査の限界を超えろ--オバマ陣営のデータ戦略は「有権者を一人ずつ数える」 - (page 4)

三国大洋

2012-12-31 17:00


ロムニー陣営は「4年遅れ」の「後追い」戦術

 自前のIT部門を持つオバマ陣営のやり方に対して、準備の時間があまりなかったロムニー側が外注(アウトソーシング!)業者に依存する選択をしたということも前回記したとおり。

 この点について「ベストな外注業者を見つけ出す、というのが私たちの考えだ」というロムニー陣営幹部のコメントが前述の記事にはみられる。この「ベストな外部パートナー」というのが、先に触れたターゲット・ポイントという会社で、同社CEOのゲイジはもともと「マイクロターゲティング」の産みの親——消費者データと投票登録記録を照合し、それを使って個々の有権者が誰に投票するかを予測するというアプローチを生み出した人物だ。

 ゲイジの名前が広く知られるようになったのは、前述のとおり2004年の大統領選挙の時だが、ロムニーとは2002年のマサチューセッツ州知事選以来の付き合いだったという。ターゲット・ポイントはロムニー選対に専任の幹部を送り込み、データ分析チームを組織したが、その規模はオバマ側の10分の1以下——ダン・ワグナーが率いたデータ・サイエンティストのチームにはもっとも多いときで54人もスタッフがいたという——で、地域ごとの有権者のセグメント分けもたいていは一度だけしか行われず、「誰に対して」よりもむしろ「どんなテーマ(争点)」について「どんなメッセージ」を伝えるかの方に大きなエネルギーが割かれたようだ。

 Technology Reviewでは、「共和党はマイクロターゲティングのアプローチを制度として取り込むような努力をほどんどせず、せっかくのアドバンテージを失うことになった」「有権者を静的・固定的なものとして捉えるアプローチは、オバマ陣営が2008年に民主党側の候補に選ばれた段階で捨てたもの」などと記している。

 このほか、オバマ陣営がケーブルテレビの視聴データ(STBに蓄積された個々の有権者の履歴)を利用して、テレビCMの出稿費用を効率化したことも前に書いたが、これについては「有権者のプライバシーを侵害しないようにしながら、個々人の視聴履歴データを使えるような仕組みをつくった」「オバマ陣営は独自の番組レーティングシステムを作った」「これに関連するOptimizerというシステムは、1日を15分ごとに96個のセグメントとして分割し、それを60チャネルにあてはめて、もっとも費用対効果の高い番組枠を見つけ出した」「この仕組みは最終的に、特定の選挙区で誰がどんな番組を観ているかを一秒単位で把握できるところまで発展した」などといった記述もみられる。

 一方、こうした取り組みについてオバマ側がリードしていることを認識していたロムニー陣営では、一種の後追い戦術——オバマ側がCMを流した地域はきっと重要な選挙区に違いないという前提で自分たちもこれに対抗する、というやり方を採用。ところが、代々共和党の強力な地盤である選挙区でオバマ側がCMを流すといった一種のフェイントをかけられ、それにロムニー側がまんまとはめられる、といったケースもあったらしい。

 こうした取り組みや仕組みのほかにも、選挙運動員に効率よく動いてもらったり、運動員から逐次情報をフィードバックしてもらえるオンラインの仕組みや、一般に向けて何らかの施策を打ち出す前に予め反応を知るためのクローズドの電子掲示板など、実にさまざまなものが構築・運用されていたようだ。

 これらについてはまた何かの機会に紹介できればと考えている。

(一部敬称略)

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