三国大洋のスクラップブック

「アメリカでいちばん意地悪な会社」ディッシュ・ネットワーク - (page 3)

三国大洋 2013年01月10日 13時02分

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 Businessweekの記事にあるグラフによると、ディッシュの契約世帯数は2012年に1400万世帯。衛星テレビ事業で首位をいくディレクTVや、ケーブルテレビ事業者トップのコムキャストとはわりと大きな開きがある。ディレクTVの契約世帯数は、ディッシュよりも500万世帯多い。ディッシュは、ケーブルテレビのナンバー2であるタイムワーナーケーブルとほぼ肩を並べる規模だ。

 20世紀末から金融危機前の2008年までは加入者数が急激に伸びた。しかし、その後は割高な有料テレビを解約してウェブなどの代替手段に乗り換える「コードカッター」というマクロのトレンドの影響もあってか、ここ数年頭打ちの状況にあることがわかる。ディッシュが、もともとは衛星電話回線用に割り当てられていた大量の周波数帯を手に入れて、これを転用するかたちで携帯通信市場に参入しようとしている背景には、こうした有料テレビ市場の飽和感があるとされている。

 また、競合するケーブルテレビ事業者や固定線の電話会社が、映像コンテンツ(テレビ番組・映画)配信とインターネット接続サービス、一部では携帯電話サービスまでバンドルして提供するケースさえあるなかで、今のところテレビしかないディッシュは不利な立場にあり、これを挽回するためにも、携帯電話サービスを手がける必要性が高い、という見方もある。

 さて。

 「優秀な人材確保が企業の成長・事業の成功の鍵」という考えを刷り込まれた自覚がある私などには、ディッシュのように正反対をいく会社がよくもここまで成功したなと驚いてしまう。しかし、それにはちゃんと理由があるようだ。「ケーブルテレビがデジタル化する前に、競合他社よりもきれいな映像・音声の放送を、しかも他社よりも安く提供することで、たくさんの加入者を集めた」というのがその秘訣だったらしい。「どんなものがよく売れるか」というツボを、アーゲンがきちんと押さえている、ということかもしれない。

決断が早く、リスクも取れる経営者

 ここまで書いてきて気付いたのは、あくまでひとつの可能性だが、チャーリー・アーゲンという人物のマインドセット、あるいは従業員数2万6000人超となったディッシュのカルチャーに、スタートアップと共通する部分が多く感じられるということだ。

 経験したことのある方なら直感的に理解できるだろうが、マイクロマネジメントでこまごまとしたところまで自分が納得いくようにしないと気が済まないタイプのスタートアップ創業者など、ざらにあるだろう。従業員にしても、立ち上げ間もない零細企業でわざわざ働こうなどと思う人は、そもそも「待遇がいいから」「働きやすい職場と聞いたから」といった基準で集まってくるわけではない。片付けなくてはならない仕事は、普通なら山のようにあり、そもそも「残業がどうの」といった話が出る余裕もない。

 その後、事業が順調に成長していき、それにともなって会社の規模も大きくなっていくと、働く人の間からもいろいろな要望が出るようになり、経営者も「このままじゃ、まわらない」と気づき、「組織作り」「制度の整備」「権限委譲」などといった事柄の必要性を痛感するようになって、その都度アジャストする——。

 よく見聞きするのはそうしたパターンだ。

 しかし、チャーリー・アーゲンの場合は、並の起業家とは異なるのだろう。たとえば厳しい資金繰りを続けていれば否が応でもお金に細かくならざるをえないなど、創業時のマインドセットを保持したまま、ディッシュを現在の規模まで一気に持ってきてしまったのではないか。

 そんな勝手な想像の当否は確かめようもないけれど、同時にひとつはっきりいえるのは、そんなタイプの経営者なら決断も早く、大きなリスクを取れる可能性も高い、ということ。そんなリスクテイカーの経営トップがいて、しかも143億ドルもの年間売上がある大企業というのは、ちょうどめっぽう足の速い巨漢のラインバッカーのような存在。敵に回したら間違いなく怖い相手であろう。

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