医薬品業界の前例はマイクロソフトにとって「抜け道」か
マイクロソフトが2011年5月にスカイプ(本拠地はルクセンブルグ)を85億ドルで買収したとき、海外に置いていた資金を使ったのは一部で既報の通り。また、2012年3月にシスコシステムズが英国拠点の動画配信ソフトウェア企業のNDSグループを買収した際にも、同様の手法が採用された。
「米国外に本拠地をおく企業を米国外にある資金で買収(だから資金の持ち込みと見なされることはない)」するのはごく単純な話。だが、今回のデルとマイクロソフトに触れたWall Street Journal(WSJ)の記事には、「マイクロソフトが海外法人(子会社)経由で米国籍のデルに出資する場合は、国外資金の持ち込みとはみなされない」という特例条項に触れた記述がある。なお、マイクロソフトが保有する現金666億ドル(2012年9月末時点)のうち、58億ドルが米国外にあるのは以前も記事で記した通りだ。
WSJの記事には、特例措置を利用した具体例は挙げられていない。しかし、前述のBloombergの記事には「医薬品業界では、企業買収という形で海外資金を非課税で持ち込んだ例が複数ある」とする一節がある。
この「過去の例」を詳しく記した2010年暮れの記事には、米医薬品大手のファイザー、メルク、イーライリリーなどが、この手法を使って海外から資金をほぼ無税で持ち込んだという記述がある。金額についても、ファイザーが300億ドル、イーライリリーが60億ドル(いずれもひとつの買収案件)とあるから相当な規模だろう。
具体的なやり方については、2009年のメルクによるシェリング・プラウ買収が例として挙がっている。メルクは海外の複数の子会社からシェリング社のオランダ(蘭)法人に94億ドルを貸し付けた。シェリング社蘭法人はこの資金で米親会社から借りていた資金を返済。その結果、この94億ドルはシェリング社株主の手にわたることになった……などとあり、メルク側も買収総額510億ドルのうち、この94億ドル分の資金を海外から実質的にタダで(米税務当局への税支払いはゼロで)米国内に持ち込むことに成功した、とある。ただし、この買収に伴うお金の動きについては、後に米税務当局からの訴えがあり、裁判に発展したという。
この記事には、ほかにも医薬品大手各社が買収を通じて米国内に無税で資金をもちこんだ例がいくつか書かれている。また、国外からの資金持ち込みに使われている具体的な手法——「Killer B」「Deadly D」「Outbound F」といったニックネームが付されている——にも説明がある。こうした手法の一部については、すでに抜け道をふさぐ法案が成立しているものもあるという。
いずれにしても、ここから簡単に判別できるのは「多国籍企業が海外に溜め込んだ資金を、米国内に税金を支払わずに持ち込むための手段がすでに確立している」ということ。つまり「2004年に実施されたようなタックスホリデーの再実施をわざわざ政府や議会に働きかけなくても——そうした内容の法案成立を待たなくても、やろうと思えばそんな持ち込みができてしまう」ということかもしれない。