各界のエグゼクティブに価値創造のヒントを聞く連載「ZDNet Japan トップインタビュー」。今回は、ネット通販などのビジネスを物流面で支える手法としてユニークなサービス「音声物流」を提供する米Vocollectの日本法人、ヴォコレクト ジャパンの内田雅彦社長の話を交え、このサービスがもたらす効果を紹介する。
「ピッキングミスがゼロになることは正直なところ考えていなかった」
こう話すのは、DVD通販大手DMM.comの物流を請け負う3PL事業者、ケー・シーのある担当者だ。ケー・シーは石川県内に約10万平方メートルの延べ床面積を持つ基幹センターをはじめ、複数の物流拠点を抱える。DMM.comでは、月450万点におよぶ商品を全国の販売店、レンタル店、個人に出荷している。顧客の注文に応じて必要な商品を倉庫から取り出すピッキング作業を効率化するため、従来は倉庫のピッキング担当者が注文書などの紙を見ながら行ってきた作業を、ヘッドセットを介して音声で必要な指示を受け取り、ピッキングする新たな方法に変更した。
「音声物流」を支えるVocollectの端末とヘッドセット
採用したのは米Vocollectの「音声物流」を実現する製品。現場の作業者が専用のヘッドセットを装着し、受注情報などと連携したホストコンピュータから送られてくる個人別の作業指示を耳で受け取る仕組みだ。紙に書かれた受注情報を参照しながら作業するのに比べ、両手が空き、紙に視線を取られることもなくなるため作業が早くなる。さらに、取り違いのリスクも減ったという。
ケー・シーは音声物流を導入した結果として、担当者の生産性は約26%向上し、ピッキングミスは2010年8月のシステム稼動以来、ゼロ件を継続中だという。ある4人の担当者について1回のピッキングにかかる時間を調べた結果、帳票(紙)での運用時に8~9.3秒かかっていた作業が、6.1~6.7秒の間で済むようになった。また耳から入る通路番号や棚番号などの指示に従うというシンプルな作業であるため、紙を利用する場合と比較して初心者でも比較的容易にトレーニングができるとしている。
また、こうした仕組みを食品を扱う企業の冷凍倉庫などに導入した企業もあったという。導入以前は、フォークリフトが行き交い、さらに運転者は急ぎながらもピッキング情報が記された紙に意識を奪われるため、非常に危険だった。そこで、倉庫作業に音声制御を取り入れた。耳で指示を受け取り作業するようになり、フォークリフトのドライバーの視界が広がった。結果として、倉庫内の安全性が高まったという。さらに、ホストコンピュータが倉庫作業の指示を出すため、システム化が進み、従来は各担当者ごとにブラックボックス化していたような作業全体をシステムとして可視化できるようになっていった。
ドコモ、DHL、LIXILなど有力企業が次々に採用
音声物流の仕組みを日本代表する有力企業が採用している。NTTドコモ、DHL、LIXILをはじめ、三井倉庫、三菱倉庫、IHI建機などが導入済み。2012年までに累計で50サイト、800端末に上り、2013年は一気に100サイトに手が届く見込みだ。また、エンドユーザーにシステムを導入するパートナー企業も、日本ユニシス、日立物流ソフトウェア、東洋ビジネスエンジニアリングなど20社を数える。
ネット通販が物流担当者にかけるリアルな圧力
一昔前の通販会社の多くは、年に数回カタログを発行し、カタログの読者がFAXで注文するのが主流だった。この場合、顧客が1回に購入する単価はある程度大きく、カタログに掲載している商品を品ぞろえしておけばいいため、在庫効率も良かった。
一方で、ネット通販の場合は一回のオーダー単価が低い上に、カタログよりもずっと幅広い品ぞろえが求められることになる。アマゾンや楽天といった通販大手の売上高が年々高まり、配送料の無料化や納期の短縮化などの競争が激化している。それにより消費者が想定する通販事業者へのサービスレベルが高止まりし、それが中堅中小規模の通販企業の事業を圧迫しているという。
「16時までの受付分は同日の18時30分までに出荷する」といった時間に余裕のないオペレーションになっているケースも多い。この場合なら、受付から2時間30分程度の余裕しかなく、結果としてピッキング担当者の焦りにつながり、ミスが起き得る。顧客への商品の配送ミスなどが起きれば、場合によっては致命的なクレームにいたる。
このようにネット通販はその特性から、物流担当者に重いプレッシャーを課す構造になっており、事業者はその課題を解決する方法を考えなくてはいけない。担当者の生産性を比較的自然な形で上げられるこの方法は、1つの戦術として有効といえそうだ。
担当者は「カッコいい」の評判に満足
Vocollectの日本法人、ヴォコレクト ジャパンの内田雅彦社長
音声物流サービス「Vocollect Voice」を支える青いヘッドセットとウェアラブルコンピュータ「Talkman A500」について、実際に利用しているピッキング担当者は、「かっこいいと言われてうれしい」と話しているという。
Vocollectの日本法人、ヴォコレクト ジャパンの内田雅彦社長は端末とヘッドセットについて「-30℃から50℃まで動作保証し、1.8メートルからの落下テストもクリアしている」と自信を見せる。ウェアラブルコンピュータは通信環境として、IEEE802.11b/gやBluetoothに対応、OSはWindows CEをベースにするなど標準技術を採用している。バーコードスキャナ、RFIDリーダ/ライタ、携帯プリンタなど様々な無線周辺機器と連動できるという。
内田氏はヴォコレクト入社前は、ERPなどの基幹系アプリケーションのマーケティングに従事していた関係で、「物流システムと基幹システムをつなぐ役割を担いたい」という。
コンピュータ上の在庫である「理論在庫」と実際に物流倉庫にある「実在庫」が食い違い、理論在庫を顧客に引き当ててしまうことで、顧客に商品を届けられなくなるといったトラブルが起きる可能性が常にあるが、音声物流は実在庫の管理をホストコンピュータが実施するため、理論在庫を扱うコンピュータと連携することで、こうした問題を解消できる可能性がある。
在庫管理の品質向上により、サービス業者のサービス品質をより高い領域に導くことが、内田氏が意識するミッションでもある。
Keep up with ZDNet Japan
ZDNet JapanはFacebookページ、Twitter、RSS、Newsletter(メールマガジン)でも情報を配信しています。