容易ではない「箱売りからの脱却」
PC事業に関しては、従来のPC開発およびマーケティング部門から、モバイルサービスビジネス、次世代端末開発などに100人規模で人員をシフト。コンシューマー向けPCのラインアップを見直し、市場ターゲットを絞り込む姿勢を明らかにした。
山本社長は「成長分野であるタブレットにリソースシフト、ビジネスシフトを図る」と語る。だが、こうした小手先の事業改革には留まらない。
PC事業と海外事業に共通する改革のポイントは、欧州に拠点を置く富士通テクノロジー・ソリューションズ(FTS)の構造転換にある。
FTSは、富士通とシーメンスが50%ずつ出資していた旧・富士通シーメンスが母体。シーメンスが保有していた株式を約4億5000万ユーロで買い取って2009年4月に完全子会社化。欧州向けのPCやサーバの生産を行うほか、販売機能も有する欧州の戦略拠点となっている。
財務部門担当役員の加藤和彦取締役執行役員専務も、「買収から3年間のキャッシュフローは計画通りであったが、今年度第1四半期から計画を大幅に下回る状態が続き、構造改革策に取り組まなくてはならない状況に追い込まれた」と語る。
富士通は2012年度業績見通しを下方修正するなかで、PCの出荷計画を期初予想から100万台減の600万台とした。これは前年度実績の602万台と比較して横ばいに留まる。
「PCの出荷計画を下方修正する要因の多くは、FTSによるもの。欧州景気の低迷に伴うIT投資の落ち込みと価格競争の激化で、FTSの損益が急速に悪化したのが原因」(加藤専務)とする。
厳しい環境に置かれたFTSの構造改革の基本戦略は、これまでの基幹事業であるハードウェア事業からの脱却という大胆なものになる。
「FTSはPCやサーバといったハードウェアに依存しているため、市場動向に左右されやすい事業構造となっている。これが低収益から脱却できない理由」と山本社長は語り、「今後はハードウェアを基盤としながらも、箱売りからは脱却し、サービスビジネスを中心としたモデルへと転換を図る」と宣言する。
サービスを中心としたビジネスモデルへ転換するために、人員削減を踏まえ、1億5000万ユーロの収益改善策を実行する計画を同時に発表した。
「FTSは、欧州地域に優良な顧客ベースとパートナーネットワークを保有している。ハードウェアの競争激化に対応したコスト構造改革を進めると同時に、その基盤をもとにしてサービスビジネスを拡大することで収益性を改善できる」と山本社長は読む。