三国大洋のスクラップブック

ついに宣戦布告された税金を払わないIT企業 - (page 2)

三国大洋

2013-02-15 19:32


 Bloombergでは、ヤフーやデルがオランダに登記したペーパーカンパニーを使って節税に励んでいることに触れた記事のなかで、「オランダ議会でも『ダッチ・サンドウィッチ』と呼ばれるような手法をこのまま放置しておくのは『国の評判に関わる』という声があがっている」「欧州委員会が12月、ハイパー節税策を通じた米国企業などの税金逃れに対する『宣戦布告』を出し、EU加盟国に『タックスヘイブン』のブラックリスト作成づくりや防止策の導入を進言した」などと記している

 この記事には「EU諸国が取りっぱぐれている税金はあわせて年間1兆ユーロにもなる」「EU27カ国の財政赤字は2012年第2四半期だけで5195億ユーロにのぼった」などともある(註6)。

 極度の財政引き締めが続くギリシャで社会騒乱が発生していたことは既報の通りだが、とくに25歳以下の血気盛んな若者の失業率が50%を超えたギリシャやスペイン、そして40%前後の水準にあるポルトガル、イタリア、それにアイルランドなども、そうした社会的「危険水域」に入っているとの指摘も今年はじめに出されていた。

 そうした背景も踏まえると、欧州各国の政府が「難局を乗り切るためには、使える手はなんでも使って……」と考えたとしても不思議はないように思える。

アマゾンの進出に喜び、そして失望した英国

Amazon
元炭鉱町にやってきたアマゾン。市民から首相まで英国全体が歓迎するも、事業が始まると失望の度合いが深まった

 英国では今月に入って老舗経済紙、Financial Times(FT)がこの話題を積極的に扱っている。

 2月8日(英国時間)にはFT Magazineの特集記事として、アマゾンが英国中部の元炭鉱町ルグリーに設けた物流センターのひどい状況を扱った調査報道を掲載した(註4)。

註4:Amazon unpacked

Amazon unpacked

When Amazon opened a warehouse in the struggling former coal-mining town of Rugeley, locals were thrilled. But, for many, this soon turned to bitter disappointment as they began to experience the working conditions – and job insecurity – at the company.

アマゾンによる物流センターの設立は、計画発表当時、デビッド・キャメロン首相からも「新たに仕事に就ける人たちだけでなく、英国経済にとっても素晴らしいこと」という賛辞を送られたほどの期待を集めた。

しかし、いざフタを開けてみると雇用の大半は一時雇い、閑散期にはクビを切られ、しばらくは失業手当の受け取りもままならないという実体が浮かび上がってきた。

FTでは仕事の内容を次のように書いている。

「携帯する情報端末からの命令で、1日7〜15マイルも倉庫内を歩かされる」
「作業状況は常に端末経由で監視されている。作業のペースが遅いようだと、すぐにハッパをかけるテキストメッセージがとんでくる」
「昼休みも30分しかなく、そのため周辺にある飲食店にランチをとりに出る従業員もほとんどいない」
「支給された安全靴が足にあわず、できたマメがつぶれることもあたりまえ」
「足の痛みに耐えかねて休みをとったところ、知らないうちに(間に入っている派遣業者から)クビを切られていた」

しかも報酬は最低賃金すれすれ。それでも「仕事がないよりはマシ」というのが地元の人々の反応らしいが、「こんなはずじゃなかった……」という失望感が大きいようだ。

第一次産業革命の原動力となった蒸気機関、それを動かしていた石炭を採掘して栄えていた炭鉱の町が衰退し、いまでは新たな産業革命の余波をこうした形で受けているというのは、なんとも象徴的。

なお、こうした極度の効率化を実現したのは日本人——トヨタの工場からきた「カイゼンのプロ」という記述があり、ルグリー配送センターにも「シックス・シグマ」の黒帯をもつ管理者などがいて、日々「現場視察」(genba walk)を繰り返しているという。

フレデリック・テイラー、エドワード・デミングの流れが、日本を経由して米英に環流したということだろうか。

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