信頼されるテクノロジ産業、信頼されない金融産業
大手PR会社Edelmanのグローバルな調査によれば、今最も信頼できる産業は「テクノロジ」であり、最も信頼できない産業は「金融サービス」だそうである。また、マーケティング会社であるHarris Internationalが行った米国の企業別調査(PDF)では、全60社中トップがAmazonで、ボトムがAIGであった。
これまた産業別に集計すると、トップが「テクノロジ」で、「金融」は下から3番目となる。「金融」より下にあるのは「政府」と「タバコ」だけだ。
金融というのはITをフル活用した装置産業であるから、本来「金融」と「テクノロジ」は非常に距離が近いはずである。今月開業予定の米国のモバイル技術をフル活用した金融サービス会社「Movenbank」は、開業直前にその名称から「bank」を外して「Moven」にすると発表した。
その理由は、「bank」の持つイメージが悪すぎるからであるという。どうして、近いはずの金融とテクノロジにこれほどのギャップが生じてしまったのか。
なぜテクノロジ産業が信頼されるのか
Harrisは、Amazonの高い評価を「地球上で最も顧客中心主義の企業となる」というビジョンを実現しているからだと分析している。Harrisの調査でトップであるAmazon、2位のApple、そして4位のGoogle、いずれも我々の生活を大きく変えるようなサービスの開発で競っている企業である。つまり、テクノロジ産業が信頼されるのは、今最も生活者の視点でサービスを開発しているからだろう。
テクノロジ産業という意味では、さまざまな産業のITを支えるMicrosoftやIBMといった企業も含まれるが、これらの企業は、それぞれ15位と28位で、AmazonやAppleには遠く及ばない。
そういう意味では、今顧客から評価されているテクノロジ産業とは、テクノロジそのものを提供する企業群ではなく、テクノロジを活用して我々の生活にポジティブな影響をもたらすサービスを提供している企業群である。この定義においては、先ほど挙げたMovenはテクノロジ企業であると言っていい。
信頼されない金融産業
Harrisによると、今年のランキングに影響を与えるドライバーとして「社会に対して付加価値を提供しているか」ということがあると言う。これは成熟した社会における価値観が金銭的価値から持続的な社会的価値へと変わりつつあることを表しているだろう。
リーマンショックの際に、金融産業がこうした動きと逆行していることが明るみに出て、今もその信頼回復途上にある。つまり、我々の生活にポジティブな影響を与えないという点で、テクノロジ産業の逆を行ってしまった訳である。
では、今の社会で金融機能が求められていないかと言えば、そんなことはない。米国におけるベンチャー支援の枠組みであるJOBS法においては、クラウドファンディングが重要な役割を果たす。また、英国では、中小企業支援のファンディングの手段としてソーシャルレンディングを活用しようとしている。これらはいずれもテクノロジによって実現された新しい金融サービスである。
「テクノロジ」と「金融」の融合
もともとテクノロジへの親和性の高い金融産業である。テクノロジ企業がもたらす新しい金融機能実現のためのイノベーションを取り込むことで、顧客を中心に据えたサービスの構築が可能となるに違いない。また、テクノロジ産業も単にテクノロジの提供者に留まれば、その付加価値は低下していると考えるべきだ。
むしろ、それがどのように社会へ影響を与えているかという意識が求められている。顧客を中心に据えた、「テクノロジ」と「金融」が融合したときこそ、「金融」産業が顧客の信頼を取り戻すときだろう。
ちなみに、Edelmanの調査で2011年に日本のみを取り上げたものがある。それによると、金融産業全体の評価は決して高くないのだが、「銀行」セクタのみは高い評価を得ているという特殊性がある(グローバルな調査では、「金融産業」と「銀行」はほぼ同ランクにある)。
テクノロジ産業が最も高い評価を得ている点は、グローバル調査と同様である。日本の銀行は、顧客からの信頼度という点において、欧米の金融機関よりもはるかに優位なポジションにあることは間違いないようだ。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。