テレワーク導入のいきさつ
新型インフルエンザや東日本大震災などの時には、BCP(事業継続)のために、多くの企業がテレワークの導入を検討した。育児や産休では、テレワークは女性ばかりでなく、男性にも有効であると分かった。
最近は、介護問題が企業にのしかかりつつあり、テレワークの導入を検討する企業も少なくない。これまでに14万人の雇用者が介護を理由に仕事を辞めており、その中に3万人もの男性が含まれているのである。多くはないが管理職も含まれている。現在よりもさらに高齢化が進むことは明らかで、これは企業にとって由々しき問題だ。
それを解決する働き方の一つがテレワークである。現在、雇用者の働き方では、週1回のテレワークが一般的であるが、それを週2、3回にすると、介護者も会社を退職しなくて済むといわれる(日本テレワーク協会「女性とテレワーク」平成23年度報告書)。
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テレワーク導入時の問題点
では、このように社会構造からみても要望されているテレワークがなぜ十分に広まらないのか。これには「3つの壁」があると言われてきた。それは1. 所得ロス、2. 業務知識ロス、3. キャリアロスの3つである。
所得ロス、業務知識ロスは少なくなったが、いまだにキャリアロスは残っているといわれる。それは、日本の「フェース・トゥ・フェースの管理形態」が問題だからである。テレワークを導入する際に企業が気にするのが、人事管理の問題と秘密保持の問題である。秘密保持は、シンクライアント、クラウド・コンピューティングなど新しい技術が次々とできているので、従来よりも安全性が増してきている。
一方で、人事管理の問題は解決が難しい。職場の管理職の多くは、フェース・トゥ・フェースの人事管理から抜け出せないでいるからである。何をどれくらい成し遂げたかを指標とする成果主義を取り入れた業績評価が中心になってからも、多くの管理者は部下の顔を見ていないと安心できないようである。
ワークライフバランス確保への意識が浸透することで、職場の現象を観察し、表現した言葉に「粘土層」というものがある。研究者によって使い方は異なるが、平たく言えば、職場にべったりと張り付いていなければ仕事ができないという考え方が強いタイプの管理者やビジネスパーソンのことだ。テレワークを推進していくには、この粘土層をなんとかしなければならないといわれる。つまり、仮に社長がテレワークを導入すると言っても、キャリアロスや人事管理の問題で中間管理職の粘土層が反対したり、導入しても運用で失敗するという。
この問題を解決するためには、もう少し技術の発展が必要であろう。つまり、キャリアロスに対しては、家にいても会社の仲間と顔を合わせられるようにすればいい。人事管理に対しても、週数回のテレワークであれば、大した影響はないと実感できなければならない。