経営戦略から見たビッグデータの核心

企業がビッグデータ運営モデルを検討すべき理由 - (page 4)

辻 大志(バーチャレクス・コンサルティング)

2013-03-05 10:00

データの共有・提供――データ流通ビジネスの可能性の確認

 データの「共有・提供」は、運営モデルという言葉と縁遠いと思われがちだが、データの「取得・収集」と並んで、今後、その運営モデルの重要性が増し、ダイナミックに描くことが求められるプロセスである。なぜならば、データの「共有・提供」の運営モデルは、新たなビジネスを創出する可能性を有しているためである。

 データの「取得・収集」の運営モデルを考えていただくと、容易に想像がつくことであるが、データを取得・収集しやすい企業と、データを取得・収集しにくい企業が存在する。また、同じように、データを活かしやすい企業やデータをマネタイズしやすい企業がある一方で、それらには不向きな企業も存在する。そして、データを取得・収集しやすい企業と、データを活かしやすい企業は必ずしも一致しない。ここに商機を見い出せる可能性がある。

図3:データ流通ビジネスの可能性
図3:データ流通ビジネスの可能性

 すなわち、データを取得・収集しやすい企業からデータを生かしやすい企業へと、データそのものを商品とするデータ流通ビジネスが描ける。市場に近い川下にある企業と川上にある製造・生産系の企業との間のデータ流通は当然考えられる。産業種別を異にする企業が互いのデータを合せることで、新たな価値を生み出すことも考えられるだろう。

 これからのデータの「共有・提供」は、社内での情報共有の仕組みという枠を越えて、企業間での商取引としてもとらえなければならない。当然、個人情報保護などのデータの取り扱いにかかわる諸課題をクリアする必要があるが、それをも含めたデータ流通ビジネスを考えることが必要だ。

 データの「提供・共有」の運営モデルを検討する際に、データ流通ビジネスを含めて考えることは、ビッグデータという取り組みにおける投資回収の早期化という面でも意義がある。すなわち、自社のデータ資産そのものを商品として扱うため、その販売による収益の確保や、それらを取引材料とした必要コストの抑制などが考えられ、ビッグデータの取り組みに対する投資を比較的早期に回収できる場合がある。

 ビッグデータというコンセプトが常識化し、さまざまな活動がデータとして蓄積され、データそのものにこれまで以上の価値が認められるようになることを考えると、データ流通ビジネスの隆盛は容易に想像できる。現段階から、データ流通ビジネスを含めたモデルを描くことの将来的な意義は大きい。

ビッグデータ運営モデルを検討する意義

 以上、データの「取得・収集」、「分析・利用」、「提供・共有」という3つのプロセスに沿って、ビッグデータの運営モデルを考察した。ビッグデータの運営モデルは企業ごとの個別具体的な検討を要するため、一般論に踏みとどまらざるを得ないが、「取得・収集」における“データが誕生する場面の創出”、「分析・利用」における“分析結果の速やかな反映のための仕組みの設計”、「提供・共有」における“データ流通ビジネスの可能性の確認”といった視点は、どのような企業においても検討のヒントになるものであると考える。

 このような運営モデルの検討は、現状は狙いや目標を定めにくい傾向もあるビッグデータの取り組みにおいて、企業経営全体としての方向性を打ち出すことになる。部分最適化に進みがちな流れの歯止めにもなる。そういった意味も共有しながら検討することで、ブレない取り組みとして進められるのである。

 次回は、本稿で議論した運営モデルなども踏まえ、ビッグデータ活用による恩恵を最大化するための組織体制や組織運営を考えてみたい。

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辻 大志(つじ たいし)
バーチャレクス・コンサルティング株式会社 経営戦略室室長
2012年6月より現職。事業展開・拡大に向けた施策やビジネスモデル構想、CRMやデジタルマーケティング等の領域を得意とする。以前はアクセンチュアで事業構想策定、CRM戦略策定、ビジネスプロセス改善、システム導入、アウトソーシング活用等といったプロジェクトに従事。その他、アジアでの新規事業構想策定、事業立ち上げ支援及び事業提携に係る調整等を推進した。バーチャレクス・コンサルティングの製品情報はこちら

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