キヤノンMJでの「知的生産性の向上」への投資は、SFAやCRMにおけるクラウドサービスの活用、企業内SNSの導入、営業部門へのUltrabookおよびスマートフォンの導入といった事例をあげながら、「グループ会社のキヤノンS&Sでは、営業スタイルの変革によって一日の平均訪問件数が4割増、新規商談が1割以上増えたという結果が出ている。新規顧客開拓などのアナログ的なスローガンに、地図データ、SFAといった新たなツールを加えた両刀遣いの成果だといえる」とした。
現場の営業が顧客からの質問を出先から企業内SNSに投稿すると、それを見た社内の各部署の社員が次々とコメントやアドバイスを寄せる仕組みだという。投稿した本人が直接面識がない社員も参加し、顧客をサポートする体制を整えたのだ。

キヤノンマーケティングジャパンの村瀬治男会長
「すべての営業スタッフがSNSでつながれば、これまで個人の能力や工夫に委ねられていたノウハウがオープンになる。言い方を換えれば、営業スタッフがそれぞれの個性を発揮するとともに、提案内容の平準化を図ることができる」
さらに村瀬会長は、キヤノンMJが日本IBMと進めているECサイトの統合についても触れた。
キヤノンMJでは、B2CサイトとB2Bサイトを別々に運営してきた経緯があるが、これを再構築して一本化する計画を進めている。
「下敷きとなっているのは、従来のタテ割り組織の発想や既成概念に囚われていては、お客様の変化、そして時代の変化に着いていけなくなるという危機感」と前置きし、「個人でも法人でも、ウェブ上での行動に関してありとあらゆる情報が日々刻々蓄積されている。これはビッグデータであり、その分析から新たなビジネスにつながる知見を獲得し、その果実をパートナーと分かち合ったり、お客様に還元するビジネスプラットフォームの構築を進めている」と述べた。
一方で「目指しているのは、ITを活用した『知の共有』によるマーケティングの変革。言い換えれば、『価値創造の変革』となる」と語りながら、「常識や垣根を簡単に飛び越え、新たな世界を切り開く点でITは効果を発揮するが、知の共有を実現するのに最も重要なのは、やはり『人』である。知の共有によるマーケティング変革は、人材マネジメントのあり方にも変化をもたらす」などとした。
自分が出したアドバイスが「他の部門や人の役に立ったなぁ」と実感し、さらに仲間や同僚への貢献度が高い社員をきちんと評価することが、ITを活用した新たなマーケティング変革やセールススタイル変革においては重要であると指摘。「タレントマネジメントがキーになる時代には、社員の持っている能力や業務パフォーマンスを、事実に基づいてリアルタイムに見える化し、評価とマネジメントに適用することが大切になってくる」とした。
最後に村瀬会長は、「ITが企業対企業の関係をどう変えていくか」と提示しながら、「従来は企業のなかで培われたITが、個人に広がるという流れだった。それが昨今では、まず個人の日常生活に浸透し、その効果や影響力が企業活動の世界に入り込んで来るようになっている。個人同士、あるいは社員が企業の中で行なっていることが、企業と企業の間でオープンかつオフィシャルに繰り広げられる。個人利用を起点とした新たなITが企業活動のすみずみまで浸透して、大きな流れになれば逆らうことは難しくなる。規制や禁止、一切無視ということはできない。どうすれば企業活動の考えと整合性が図られるだろうか、どう活用すべきだろうか、といったことを真剣に考えなければならない。これは我々にとって、顧客に求められる次世代のソリューションをいかに創りあげるか、という大きな経営テーマでもある」と語る。
そして「ITをテコにして企業変革を実践し、日本の産業が競争力を高め、この国全体が盛り上がっていくことを願いたい」と、講演を締めくくった。
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