三国大洋のスクラップブック

アップルのiTV登場を阻む「複雑怪奇」なテレビ業界 - (page 2)

三国大洋

2013-03-08 17:22


 この件について『Bloomberg Businessweek』(アプリ版)に掲載された短信では、次のように記されている。

ケーブルビジョン、反バンドルの戦いに参戦

有料テレビ放送を配信するケーブルビジョンが、バイアコムをマンハッタンの連邦裁判所で訴えた。バイアコムが複数のチャンネルを束ねて(バンドルして)ケーブルビジョンに卸している商慣習が独禁法違反にあたる、というが提訴の理由。ケーブルビジョンは「バイアコムは、ニコロデオンやMTV、コメディ・セントラルといった無くては話にならないチャネルと抱き合わせで、それほど視聴者が多くないほかの14のチャネルまで取り扱うよう我々に強要している」などとする声明を発表。同社は独占禁止法を使いながら、バイアコムにアラカルト方式でのチャネル提供を行うよう求めていく。これに対しバイアコムは、バンドル形式でのチャネル提供は消費者のためになるものとし、ケーブルビジョンの主張に対して積極的に戦っていくと述べた。(註7)

 人気のないチャンネルまで売りつけようとするバイアコムの「強欲さ」——Businessweekの説明だけを読むと、どうしても強欲の部分が強調されて伝わってくるだろう。

 この話題に触れた各メディアの取り上げ方も、「裁判の結果次第では、チャンネルのバンドル(抱き合わせ)提供がようやく禁止になるかもしれない」「消費者が好きなチャネルだけを選んで契約できるようになるかも」という論調が目立った印象である(註8)。前掲のWSJの動画でもそんな話題が議論されている。

 一方、この件について素晴らしい解説を加えたのがAllThingsDのピーター・カフカだ。先月のDカンファレンスで、ディッシュ・ネットワークのチャーリー・アーゲンや、インテル・メディアのエリック・ハガーズにインタビューしていた記者である。

 下のビデオはチャーリー・アーゲンへのインタビューの模様。「コードカッティング」——有料テレビ放送の契約解除の流れについて話している。

 さて、カフカはこんな書き出しの解説を読ませてくれた。

 「有料テレビのビジネスモデルは単純で、『ある(一つの)チャンネルを観たい』という消費者に対して、観るかどうかもわからない『ほかの数十〜数百チャンネルの料金も支払わせる』というもの。こういうやりかたに対して頭にきている消費者はたくさんいるが、それでもバンドリングを無くすのはかなり難しいように見えていた。ところが今、あるケーブルテレビ事業者が『バンドル提供を解体するんだ』と言い出している……」(註9)

 カフカはバイアコムとケーブルビジョンが2012年12月に配信契約を延長したばかりであることに触れた上で、「バンドルする代わりに個別のチャネルの料金(卸値)は割引してある」「このやり方を認める判決が過去に何度となく出されてきた」「ケーブルビジョンは訴訟という手立てをつかって、2カ月前に調印したばかりの配信契約について、条件の再交渉に持ち込もうとしている」などとするバイアコム側の主張を紹介。

 さらに、メディア大手各社によるバンドリングを問題として、ケーブルテレビ契約者(=一般消費者)が起こしていた集団代表訴訟で、2012年4月に原告側の訴えが却下されていた例(註10)などに言及しながら、「もしバンドルがなくなるような結果が出れば、それは素晴らしいことだけれど、裁判の結果が出るまでには数年かかる」「チャンネルをアラカルト方式で提供(バラ売り)しなくてはならなくなったメディア企業側では、人気チャンネルの料金を引き上げる可能性も高まる」「バンドルの方が結局安いとなれば、消費者はバンドル契約を選択し続けることになるかもしれない」などと書いている。

 なお、直後の2月末にケーブルビジョンが2012年第4四半期の決算を発表した。その内容が芳しいものではなかったことから、結局この提訴は「配信契約の条件再交渉に持ち込む」ためのケーブルビジョンの戦術的動き、という見方が正しいのかもしれない。

 訴訟の具体的な中味は別にして、ここではケーブル業界の構成員として、3つの当事者が関わっている点にあらためて注意しておきたい。

ジョブズが嘆いた「テレビ業界」とは“何”か

 まず、ケーブルビジョン(ディストリビューター)、バイアコム(プログラマー)、そしてMTVやニコロデオンといったネットワーク(チャンネル)——この3つを一括りにしたものが、スティーブ・ジョブズの指していた「テレビ業界」と考えられる。

 なお、ディストリビューターについては、ケーブルテレビ各社と競合する衛星テレビ放送のディレクTVやディッシュ・ネットワーク、それにベライゾン・コミュニケーションやAT&Tがそれぞれ提供しているテレビサービス(Verizon FiOS、AT&T U-verse)なども含まれる。これらの業者の間には、単に「パイプ」(ネットワーク)の技術の違いだけしかない。

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