儲かり続ける映像ビジネス
アップルをはじめとするテクノロジー系の大手企業が上手にテレビ分野に参入できない理由は、映像コンテンツを扱うビジネスがいまだに儲かり続けているから——つまり、メディア各社が「あんたらの手助けなどなくてもやっていけるよ」という状況にあるからであり、iTunesで楽曲ダウンロード販売が始まった約10年前の音楽業界の状況とは、そこが大きく異なる点といえる。
マードック一族のニューズコープが、テレビ放送のFox Entertainment GroupやFox News、映画の20th Century Foxといった映像事業(Fox Group)と、WSJなどの新聞やハーパーコリンズなどの出版社といった紙中心の事業(News Corporation)の二つに事業を分割したことや、タイムワーナーが雑誌出版部門のタイムのスピンオフを決めたことなどが象徴的(註12)な動き。
全体の印象としては、採算性が悪化した音楽事業はとっくの昔に切り離したメディア大手が、今度は紙の事業も切り離し、成長が見込める映像分野にどんどん軸足を移すという流れが感じられる。
また、一昔前には4大テレビネットワークの中でもっとも視聴率が振るわず「老人向けのテレビ放送」と揶揄されていたCBSが、57歳という視聴者の平均年齢の高さが逆に幸いして、今では視聴率競争でもトップに立ち、広告主からも引っ張りだこという話も出ているほど(註13)。
映像コンテンツ事業の活況ぶり、なかでもスポーツ中継の放映権をめぐるバブル的状況については改めて別に記したいと思うが、そんな状況だから、たとえば2月のDカンファレンスに登場したHBO(タイムワーナーの主力チャンネル、「Must-Have channel」の一つ)のエリック・ケスラーという幹部は、「アラカルト方式の提供は、しばらくはない」と話していた。また、同カンファレンスではインテル・メディアの責任者が「アラカルト方式の配信は考えていない」旨の発言をしていたが、それも致し方なかろう、と思えてしまう(註14)。
なお、ケーブルビジョンとバイアコムとの訴訟に触れたWSJの記事には、加入者がケーブルテレビ事業者に支払う月額料金が今年は73.44ドルまで増加(2010年は66.39ドル)するとの見通しが示されている。料金の上昇を危惧するディストリビューター幹部の「ベーシックなケーブルテレビサービスの料金が月額100ドルにもなると、消費者はもう契約できなくなる」というコメントも紹介されている(註15)。