ところで。
実はこの一件について調べていて一番驚いたのは、業界各社の「フレネミー」の関係がやたらと複雑なこと、そしてフレネミー同士が始終ケンカしていることであった。
ケーブルビジョンの例でいうと、同社を所有するドラン一族はAMCネットワークスやMGSメディアのようなプログラマーも保有。MSG MediaはThe Madison Square Garden Companyの一部門で、NBAニックスやNFLレンジャースなどの試合中継を制作・放映する「MSG」などのチャンネルを保有している。昨年初めにはMSG(持ち株会社)と、やはりニューヨーク周辺を基盤とするCATV事業者のタイムワーナー・ケーブル(業界第2位、略称はTWC)との間で配信料をめぐる衝突があり、48日間にわたってTWC加入者がMSGの番組を観られなくなる(ブラックアウト)という出来事があった。
NYTの記事には、昨年1月末から突然降って湧いたような「Linsanity」の大騒ぎ——ジェレミー・リンというハーバード卒の台湾系米国人バスケットボール選手(当時ニックスに在籍)が突如大活躍し始め、低迷を続けていたニックスが連勝を続けた——があり、みんなが急にニックスの試合を観たいのに観られないということになって、事態を見かねたアンドリュー・クオモ知事が両社の調停に乗り出して何とか騒ぎが収まった、などとある(註16)。
逆の立ち場になったら——つまり、タイムワーナー系列の人気チャンネルがケーブルビジョンに配信されなくなったら困るから、ここはブラックアウトだけは回避しようとか、「業者間の利害のもつれで消費者に迷惑をかけるなんて」といった発想は、あんまりないのかもしれない。
こうしたプログラマーとディストリビューターのケンカはしょっちゅう起こっているようでもあり、たとえばWikipediaにあるディッシュ・ネットワークのページを読むと、「Criticisms and controversies」という欄には、過去の主立った訴訟の例が延々と書かれていたりする。
また、ディストリビューターだと思っていたコムキャスト(CATV業界第一位)がこの2月、NBC(4大テレビ局の一角)とユニバーサル・ピクチャーズを保有するNBCユニバーサルを完全に傘下に収める(註17)など、そもそも事業者間の線引き自体が曖昧になってきているようでもあり、業界全体の状況はまさに「激変中」といったところかもしれない。
さて、今度このコラムでメディアの状況を取り上げるときには、ネットの普及や「マルチディスプレイ」(テレビのほかスマートフォンやタブレットなど)の浸透により、かえって価値が高まったとされるスポーツ放映権のバブル的状況などを中心に、主要各社の状況を記したいと思っている。