三国大洋のスクラップブック

まずは一歩後ろに引いてみること--ハフィントンからサンドバーグへの助言 - (page 2)

三国大洋

2013-03-12 18:45


アリアナ・ハフィントン
「突き詰めると、成功とは金でも地位でもなく、自分が望んだ生き方をできるかどうか」と、アリアナ・ハフィントン(中央)は主張

 前振りがだいぶ長くなった。

 この論争をめぐるアリアナ・ハフィントンのコラムで感心する点は二つある。

 一つは「Lean In」(「前に踏み出す」というような意味か)と対をなす「Lean Back」(「いったん後ろに下がって、弾みを付けること」、転じて「ひと休みする」といった感じか)という言葉を持ち出し、ともすると収拾がつかなくなりそうな議論を統合・昇華できるようにするための切り口を示していること。

 そして二つ目は「男性中心の社会で『良し』とされてきた成功のモデル(模範)は、実は女性だけでなく、男性のクビを締める結果にもなっている」として、やたらと競争好きで、他の人より長い時間働くことや睡眠不足を自慢するような輩に、「そんなんじゃない、もっと別の良い生き方があるはず」だと教えてあげましょう、と(女性に向けて)言っている点だ。

 「世界は女性を必要としている、成功の定義を見直させるために。私たちは、金や権力以外の第三の指標を必要としている——安寧や健康、それに息抜きや充電、リフレッシュする能力、仕事とそれ以外の生活のなかに喜びを見出す能力に根ざした指標を定めるために」(註9)

 「とても長い間、男性は『成功』というと、深夜まで働き続けることや自分をぎりぎりまで追い込むこと、それに睡眠不足やバーンアウトといった事柄を連想しがちだった。こうした思い違いを変えるためには、女性がリードする必要がある——女性自身のためにも、また時には後ろに引くことを覚える必要が切実にある成功を収めた男性のためにも、女性がリードしなくてはならない」(註10)

 こんな文章からは力強ささえ伝わってきそうだ。

 ハフィントンが新しい視点を持ち込んだことで、この議論は以前よりもずっと広がりを持ったものになった気がする。少なくとも、男が口出しできる隙間ができた——いや、知らんぷりを決め込んでやり過ごすことがちょっと難しくなった、といった方が良いかもしれない。

 そうしてまた「突き詰めると、成功とは金でも地位でもなく、自分が望んだ生き方をできるかどうか」というハフィントンの主張(註11)について、男性も——むしろ「男」というのをちょっと飛び越えて——あらためて考えてみるいい機会になろう。

 このコラムを読みながらそんなことを感じた次第である。

追記:

 ストレスと生産性の逆相関関係——働きすぎてストレスを溜め込んでしまうと、良い知恵も出なくなって、結局は生産性が下がってしまうこと——については、すでに多くの人が体験を通じて気付いているだろう。

 2月上旬にNYTに掲載されたあるコンサルタントの話によると、「睡眠時間の不足と職場でのバーンアウトとの間には、はっきりとした相関関係がみられる」「睡眠不足が原因で生じた生産性のロスを金額換算すると、米国企業全体で632億ドルにもなる」といった研究も発表されているという(註12)。

 逆に「短時間の仮眠をとるだけで、集中力や反応速度が格段に向上」したという夜勤の航空管制官を被験者とした実験結果、あるいは「きちんと長期休暇を取らせたほうが離職率が低い」などのデータもあるという。

 アリアナ・ハフィントンのコラムには、ストレスの及ぼすダメージについて具体的に触れた部分もあり、「ストレスの溜まる仕事に就いている女性は(そうでない女性に比べて)心臓病のリスクが40%弱、糖尿病のリスクは60%も高い」などとあるのを読むと、「職業上の成功など、そもそも命あっての物種だろうに」といった想いも湧いてきてしまう(註13)。

 ストレスを避けて通ることが可能な時代とも思えないが、それでも仕事のなかで「創造性」「問題解決能力」——「新しい発想やモノの見方」と言い換えてもいい——などの重みがますます高まるなかで、「一生懸命やる」ばかりが能ではないんだなぁ、と改めて思い知らされたような気もしている。

(文中敬称略、次ページに註記一覧を掲載しています)

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