現行のITではもはや将来の期待に応えられない。“静かなるIT危機”が迫っている――。Gartnerは毎年、4000人以上の最高情報責任者(CIO)を主な対象に、CIOが抱える課題を調査。2012年9~12月に実施された調査では、2013年の課題について世界2053社から回答を得ている。
対象となったCIOは世界41カ国の政府や公共機関を含む36業種に所属し、そのIT予算の合計は21兆円以上になる。日本では78人が回答。回答企業のIT予算の合計は1兆3000億円になる。
IT予算を前年度比較で見ると、2011年調査では世界で0.5%増、日本で0.3%増。2012年は世界で0.5%減、日本で0.8%減と、2010年以来の減少になっている。
世界のCIOが重視するビジネス戦略は、1位が「企業成長を加速する」、2位が「オペレーションで成果を挙げる」、3位が「企業コストを削減する」となっている。
これが日本企業のCIOになると、1位が「新商品や新サービスを開発する」、2位が「企業コストを削減する」、3位が「新規顧客を獲得し、維持する」になっている。日本の場合「企業成長を加速する」が4位、「オペレーションで成果を挙げる」は9位となっており、世界の回答傾向に乖離が見られると説明している。
「企業コストを削減する」は世界と日本の両方で共通かつ継続的に重視されている戦略だ。だが全体としてはコスト削減よりも成長戦略重視の傾向が見られるという。世界のCIOは企業全体レベルの戦略に目が行きやすいのに対し、日本のCIOは商品やサービス、顧客などより具体的な実現方法に意欲が向かう姿勢があることが垣間見られると分析している。
重視するIT戦略では、世界の1位は「ビジネスソリューションを提供する」、2位が「ITマネジメントとITガバナンスを改善する」、3位が「IT組織とワークフォース(要員)を改善する」となっている。日本では、1位が「ITマネジメントとITガバナンスを改善する」、2位が「ビジネス部門とIT部門のリレーションシップを改善する」、3位が「IT組織とワークフォース(要員)を改善する」となっている。日本では「ビジネスソリューションを提供する」が10位以下となっており、世界と日本の差がみられるとしている。
世界と日本ではともに「ITコストを削減する」の優先度がランクを下げている。成長重視のビジネス戦略に呼応したIT戦略が相対的に重視されているからだ。世界と日本ではともに、IT人材の調達とITマネジメント指針の確立に腐心する姿勢も明確になっている。これは“先進テクノロジ”の活用を前提とする、新しい人材像や組織像がIT部門に求められているためと推察している。
だが、世界の場合、“ビジネス(の成長に直結する)ソリューション”の必要性を極めて強く認識している。経営層や利用部門に対して、より明示的で直接的な貢献を示さなければならないという危機感、切迫感を示唆していると分析している。
Gartnerでは以前から、企業活動における情報やプロセスがデジタル化していく劇的な変化をとらえるには、CIOやIT部門のその役割を大きく見直すべきと提唱している。クラウドやアナリティクス、モビリティ、ソーシャルなどの先進テクノロジの到来は、企業に対して革新的なビジネスモデルを生み出す潜在機会を飛躍的に広げていると説明している。
こうした先進テクノロジは、従来のような人やプロセスの“代替”として自動化や効率化を目的としたITではないとも言及。まったく新しい“デジタルビジネス”を生むITと表現している。デジタルビジネスの萌芽は、マーケティングや営業などのフロントオフィスですでに見ることができるという。こうした機会に対して、企業のCIOとIT部門は、もっと主導的な立場で挑むべきと提言している。
主導的な立場で挑むためには、新しいITの戦略や投資、人材像を策定し、現行のリソースとのギャップを認識して、その改善に取り組む必要があると説明している。今回の調査でCIOは「企業はITの潜在力を平均43%しか引き出せていない」と回答。Gartnerは、この数字はあまりにも低すぎると苦言を呈している。このような経営環境の変化を受けて、これからのCIOは以下の3つの役割を担う必要があると提言している。
- Tending:既存のITシステムやITオペレーションの徹底した改善と効率化
- Hunting:さまざまなデジタルビジネス機会の渉猟と発見
- Harvesting:直接的な貢献を示せる“IT投資収益率(ROIT)”の収穫と刈り取り