エンタープライズトレンドの読み方

在宅勤務禁止への批判は筋違い--戦略遂行を妨げる内外の反応

飯田哲夫 (電通国際情報サービス)

2013-03-14 12:00

 Yahooが在宅勤務の禁止を発表して以来、フレキシブルなワークスタイルを許容すべきか否かについて、米国では大きな論争に発展しているようだ。Bloomberg BusinessweekThe New York TimesForbesなど多くのメディアが論争を取り上げ、日本経済新聞もForbesの記事を翻訳して紹介している。

 さらにこの議論の過熱させるかのように、米国の大手家電量販店であるBest Buyが、同社の“Results-Only Work Environment(ROWE)”と呼ばれる、フレキシブルなワークスタイルを認める制度の撤廃を発表した(Businessweek誌)。ROWEは、Best Buyが2005年に始めたもので、その革新的な試みは当時Businessweek誌でも取り上げられている。それは、いつどこでどれだけ働くかは社員の自由で、決められたスケジュールも、出席しなければならないミーティングもない、結果が全てというものだ。

 このように、フレキシブルなワークスタイルを否定する企業が続出する中、YahooやBest Buyは、メディアや従業員たちからの激しい非難に曝されている。

 なぜならば、在宅勤務の禁止は、子供のいる親たちを困難な状況に追い込むことは間違いなく、ワークライフバランスを重視する現在のトレンドにも逆行するからだ。今後、グローバルソーシングが進んでいくことを考えれば、在宅勤務を含め、フレキシブルなワークスタイルを禁止するというのはナンセンスにも思える。

 しかし、今回渦中にある2つの企業、つまりYahooとBest Buyには共通点がある。それはいずれも、業績の低迷からの回復、つまりターン・アラウンドの過程にあるということだ。

 Yahooは、GoogleやFacebookなどに大きく水を空けられ、もはやインターネット企業としての勢いは感じられない。創業者であるJerry Yang氏が2009年に退任して以来、渦中のMarissa Mayer氏で3人目のCEOである。Best Buyもネット専業との競争激化で業績が悪化し、店舗閉鎖や従業員削減に追い込まれている。

 つまり、この2社がフレキシブルなワークスタイルを否定したことを、一般論として在宅勤務を否定したものとして非難することは筋違いである。この2社は、復活を掛けたターン・アラウンドの途上にあり、フレキシブルなワークスタイルを認めている余裕がないのである。

 駄目になった会社を再生させるには、そこで働く社員に対する危機意識の醸成が必要である。そのためには、組織を変える、評価の仕組みを変える、働き方を変える、など経営の意思を示すシンボリックな対処が求められる。そして、両社はそれを実施したまでである。

 今までの仕組みを変えれば、内部からの反発が出るのは当然で、それが原因で離反する社員が出るのもやむを得ない。しかし、従来と同じことをやっていても駄目であることを何らかの形で示す必要がある。

 在宅勤務の禁止が企業の業績回復に直接に繋がる訳ではないが、少なくともこれまでと違う価値観を持ち込もうとするマネジメントの意思を伝えることが出来る。それは、時流に乗り遅れて業績の悪化した両社においては、協力的で創造的な労働環境の構築なのである。

 両社に対して浴びせられる社会的非難によって、こうしたターン・アラウンドの過程にある企業の戦略的自由度が狭められ、業績の回復を遅らせるのではないかと懸念される。在宅勤務の禁止は、従業員の解雇に比べれば、遥かに穏便な手段であろう。

 故に、Mayer氏もここまでの論争は予期していなかったに違いない。仮にターン・アラウンドの過程にある企業であっても、その行動が社会やメディアにどう解釈されるかについては十分注意を払う必要があるということだ。

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飯田哲夫(Tetsuo Iida)

電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。

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