本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、日本マイクロソフトの樋口泰行社長と、NECの木下学執行役員常務の発言を紹介する。
「競争環境上、ハードウェアとソフトウェアをまとめた製品を出す必要が出てきた」 (日本マイクロソフト 樋口泰行 代表執行役社長)
日本マイクロソフトが3月1日、自社製のタブレット端末「Surface RT」を3月15日に発売すると発表した。樋口氏の冒頭の発言は、その発表会見で同社がタブレット端末市場に新規参入する理由について語ったものである。
Surface RTは、Windows 8の簡易版である「Windows RT」を搭載した10.6インチのタブレット端末である。タブレットでの操作に最適化された「Office 2013 RT」を搭載しており、Word、Excel、PowerPoint、OneNoteなどを標準実装しているのが特徴だ。
日本マイクロソフトの樋口泰行社長
樋口氏は会見で同製品を手にしながら、「Windowsを搭載していないタブレットを購入したユーザーの半数が、機能に不満を持っていると聞いている。Surfaceはタブレットとしての使用とともに、キーボードを付ければPCとして生産性の高い仕事もでき、バリューは比較にならないほど高い」と胸を張った。
Surface RTのさらに詳しい内容については、すでに報道されているので関連記事等をご覧いただくとして、ここでは今回のマイクロソフトの動きから筆者が感じたことを記しておきたい。
マイクロソフトがこれまで展開してきたWindowsビジネスは、同社がOSを提供し、パートナーであるメーカーがハードウェアをつくるという協力関係で成り立ってきた。
しかし、タブレット端末市場ではAppleやGoogleがOSやサービス、ハードウェアを垂直統合したビジネスを展開してシェアを拡大。これが樋口氏の言う「競争環境」で、マイクロソフトもスピーディに対抗するため、Surfaceによって垂直統合型ビジネスに参入した格好だ。
これによってパートナーとのエコシステムへの影響が取り沙汰されているが、その論点は他稿に任せるとして、筆者が注目したいのは、垂直統合型ビジネスがサーバを中心としたシステムからタブレット端末の市場まで広がってきたことである。
サーバを中心としたシステムによる垂直統合型ビジネスには、IBM、HP、Oracle、富士通、日立製作所といった大手システムベンダーがこぞって参入しており、激しい市場競争を繰り広げている。一方、タブレット端末による垂直統合型ビジネスでは、今回のマイクロソフトの参入によってAppleおよびGoogleとの三つ巴の戦いが鮮明になってきた。