なぜ今、シェアリングエコノミーか
The Economist誌3月9日号の北米版が「シェアリングエコノミー」を表紙に取り上げた。シェアリングエコノミーとは、リーマンショックに前後して注目された個人対個人(PtoP)のサービスビジネスを中核とする経済活動を指す。
例えば、個人が所有する比較的高額な実物資産(家とか車など)を別の個人に貸し出し、その対価として手数料を受け取るような経済活動である。より具体的に言えば、ニューヨーク在住の家族が休暇で自宅を2週間空けるならば、その間NYへ旅行に来る家族に部屋を貸し出してレンタル代金を受け取るという具合だ。資産を保有している人にはその有効活用になるし、それを利用したい人にとっては、ホテルに泊まるよりも安くサービスを享受することが出来る。
既存ビジネスにも影響
シェアリングエコノミーそのものは、決して真新しいものではない。しかしながら、The Economist誌によれば、例えば部屋のレンタルを仲介するAirbnbのユーザーは、2008年のサービス開始以来400万人であるが、そのうち250万人は2012年に利用したのだという。つまり、その利用が加速度的に伸びている。そして、その地理的広がりは、世界192カ国3万都市に及ぶ。
一方、カーシェアリングの領域では、大手レンタカー会社や自動車メーカーが、カーシェアリング事業に乗り出した。アメリカのいくつかの都市では、タクシー業界がPtoPタクシーサービスを禁止するよう政府に働き掛けを行ったという。つまり、シェアリングエコノミーの急速な広がりが、既存のビジネスに影響を与え、当局もその規制に乗り出す規模になってきたということだ。
サービスイノベーションの到来
『オープン・イノベーション』で知られるHenry Chesbrough氏は、近著『オープン・サービス・イノベーション』において、製品を中心としたビジネスは、そのコモディティ化の速度が早すぎて、もはやイノベーションを維持することは困難であると指摘する。
しかしながら、「新製品やテクノロジを開発するのと違って、サービスをどのように変革していくかに関してはあまり知られていない」(P19)のが実情だ。つまり、サービス分野のイノベーションの手法はまだ議論が十分ではない。
このように企業がまだ無防備であるなか、テクノロジによって支えられたPtoPの仕組みが、サービスビジネスにイノベーションをもたらそうとしている。サービスの提供は、家や車などの資産には留まらない。最近では、プログラミング、デザイン、翻訳などなど、多くのサービスがクラウドソーシングとして提供されるようになっている。
これらは実物資産をシェアする訳ではないが、能力をシェアすることで対価をもらうという意味では広くシェアリングエコノミーと解釈することも出来る。しかし、ポイントは資産の形態ではない。重要なのは、PtoPのプラットフォームを通じ、個人が有する資産(知的・物的を問わず)を容易に他者と共有することが可能となり、サービスビジネスにイノベーションが起きつつあるということだ。
個人が主役
シェアリングエコノミーの主役は個人である。一人ひとりが自分の保有する資産を有効活用することで収益を得る。クライアントとの直接取引により仲介手数料が減少する。また、フルタイムでなくとも自分の空き時間を活用してサービスを提供することも可能だ。
これによって、一対多のビジネスモデルから多対多のビジネスモデルへの移行が加速する。領域によっては、これからの市場の成長は、企業によって提供されるノン・シェアリングエコノミーではなく、個人によって提供されるシェアリングエコノミーによってもたらされるかもしれない。
とするならば、我々のワークスタイルも企業に所属するモデルから、個人が中心のモデルへシフトする方が将来性がある。実店舗を通じた小売ビジネスが無くならないように、PtoPモデルが全てを置き換える訳ではない。しかし、成長の伸び代がどこにあるのかを見極め、企業も個人もそれに備えなくてはならない。
飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。
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