デジタルならではの取り組みを探求
挑戦的なのは広告の見た目だけではない。五輪招致広告では「エキスパンド時間」や「インタラクション回数」といった、これまで日本では取り入れられてこなかった新たな指標も導入されているという。
この広告では通常の広告に比べ、広告に対しアクションをした割合を示すインタラクション率が7倍、広告にマウスなどで触れていた時間を示すエキスパンド時間は1.5倍という結果になったとする。日本にはデータがなかったため世界と比較した数値だ。
ヤフーの考えるウェブ広告の将来像を語るヤフーのマーケティングソリューションカンパニー、マーケティングイノベーション室の友澤大輔室長
これらの指標を取り入れたのは、ブランディング広告においてはクリック以前のユーザーの反応というのが重要と考えたからだと友澤氏は指摘。「クリック率だけではそのコンテンツが持つ力のごく一部、せいぜい数%しか見られない」(友澤氏)と背景について語った。
こうした指標の事例を作るのもマーケティングイノベーション室の狙いの1つだ。いくら重要な指標でも、広告主がその存在を知らなければ求められることはない。それゆえ広告媒体側から、このような指標が存在し、かつ利用できることを示す必要がある。
「媒体社やクリエイティブにとっても、指標が増えることは望ましいこと」と同氏。もし指標がクリック率しかなければ、それに対する他の条件はコストだけになってしまう。つまり値引きの勝負に陥る。だが、いろいろな軸があれば、総合的な評価が可能になる。「どの指標に重点を置くか、クライアントとしての意志が働いてくる」(同)わけだ。
さまざまな経験が生きた
友澤氏がこうした挑戦に取り組んでいるのは過去の経歴にも関係している。新卒で入社したベネッセでは郵送のダイレクトメール(DM)に携わり、紙という媒体を相手ごとにかなりカスタマイズして制作したという。
また、ニフティに在籍していたころには、社内の膨大なデータからマイニングするなどして、その結果を基に他社にユーザーが奪われぬようDMや電話によるアクションを行った。また、分析ビジネスを立ち上げるという業績も残した。その後も、リクルートや楽天でダイレクトマーケティングなどの業務に携わっている。
「つまり、データを見て、分析をして、デジタルなアクションへつなげる――そういった仕事を、これまでは広告主として手掛けてきました。Yahoo! JAPANでは、その広告主の視点に立って広告サービスを提供する側の仕事をすることで、新しいことができるのではないかと考えています。新たに立ち上げたのが、マーケティングイノベーション室というわけです」(友澤氏)