日本IBMは4月15日、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)やシステムインテグレーター(SIer)が、仮想アプライアンスを作成したり、活用、販売したりすることなどを支援する「IBM仮想アプライアンス・センター」を東京・中央区の晴海事業所に開設すると発表した。IBMが無償で技術やノウハウを提供し、稼働確認などの技術検証をISVやSIerと共同で展開、検証された仮想アプライアンスは、同社ウェブサイトで紹介し、それらの販売を後押しする。
仮想アプライアンスは、仮想化環境で稼働する仮想マシン上にOSやアプリケーションを事前にインストール、設定し、すぐに使える状態にして、一つのファイルにしたもの。OSやアプリケーションなどをまとめてカプセル化して、可搬性を高める。
標準化団体「Distributed Management Task Force(DMTF)」で規定された標準的な形式「Open Virtualization Format(OVF)」に準拠した、OVFファイルとして生成される。一度作成すれば、同じハイパーバイザの環境であれば、ハードウェアに依存せず稼働できるようになる。
同社によれば、仮想アプライアンスを用いれば、OSやミドルウェア、アプリケーションは、それぞれ個別の設定をする必要がなくなり、さまざまな専門スキルを必要とする複雑な導入や設定の作業を大幅に簡略化でき、サービス利用開始までの時間短縮、システム構築の工数削減によるコスト低減、安定した高品質のサービス提供を実現できると説明。保守運用では、テスト項目を大幅に削減することで作業時間やコスト、人的作業ミスを低減できるとしている。たとえば、導入作業は8時間が1時間に短縮されるとともに、保守サポートに必要な工数は24人月から12人月にできる例があるという。
同社が仮想アプライアンス・センターを設置した背景には、ISVやSIerが抱える、さまざまな課題がある。すべてのITコストに占める、保守運用費は70%に達しているとともに、システムの資源の85%は普段使われていない、新ビジネスを開発する際などに必要なインフラ資源が迅速に提供されない――といった点だ。
同社の専務執行役員システム製品担当の三瓶雅夫氏は「90年代前半以降、いわゆるダウンサイジングに伴い、分散環境が構築されたが、気が付けば、ハードやシステム自体のコストはさして増えていないものの、複数のバージョンのOS、多様なミドルウェアが乱立し、異なるベンダーの機器が混在する環境が存在して、保守運用のためのコストが増加してきた」と指摘。これらの課題を解消するため、IBMが提示する解答が仮想アプライアンスであるとした。
仮想アプライアンスは「仮想化環境で稼働するアプリケーションを容易に展開可能にするだけでなく、保守作業などを大きく削減でき、ISVやSIerにとっては導入、設定、保守といった煩雑な作業プロセスを簡素化できる」(三瓶氏)が、ISVやSIerがこれを活用するには、さまざまな障壁があったといわれる。作成しやすくなるツール類はほとんどなく、方法論なども乏しかったのが実情だった。
そこで仮想アプライアンス・センターでは、IBMの技術とノウハウを生かした、仮想アプライアンスを作成するための専用ツール「IBM Image Construction and Composition Tool (ICCT)」を用意している。このツールはOS、データベースなどのミドルウェア、アプリケーションの構成や設定をあらかじめ済ませ、アプリケーション実行環境を整えたソフトウェア。「VMware」「KVM」「PowerVM」といったさまざまなハイパーバイザに対応しており、「Linux」とIBMのUNIX OS「AIX」の上で稼働する。
従来、これと同種のツールはあったが、特定のハイパーバイザ専用のものがほとんどだったという。これに対し、ICCTは複数のハイパーバイザに対応し、業界標準であるOVFに準拠した、オープンなツールであることが特徴であるという。
ISVやSIerが、同センターで作成した仮想アプライアンスは、日本IBMのウェブサイトで紹介し、全国の企業に向けて販売できるよう、同社が支援する。同センターに参画する、これらの企業間の情報共有、交換の場も提供される。
三瓶氏は「IBMは、多様な新しい技術を創造し、それを顧客の価値に転換、業界を変革していくことが使命だ。今回のセンターは、製品の販売促進をするためのものではない。あくまでも、仮想アプライアンスの普及を図り、これを利用する企業が、保守運用コストを下げ、効率化するのを支援することが目的であり、センター自体で利益を上げることは考えていない」と説明した。