変わりつつある社内統制の考え方
また、今の多くの企業では社員の統制の手法にも問題があり、最も大切な経営資源であるはずの「ヒト」があまりにも活用されていない、と斉藤氏は指摘する。
米Towers Perrinが16カ国の大・中規模企業の社員を対象に行った2005年の調査で、仕事に積極的に参加しているという人はわずか14%。中央統制の弊害だと斉藤氏。
「統制型マネジメントは科学的管理法、すなわち100年ほど前からの手法ですが、このマネジメント手法が適している手続き型の仕事は時代につれてどんどん減っており、今や30%くらいしかありません。残り70%は、ヒューリスティックな、人間にしかできない仕事です。この部分には、科学的管理法による統制は心理的抑制につながり、マイナスの影響をもたらします。内発的な動機付けが必要なのです」(斉藤氏)
科学的管理法は、多数の人員が同じ作業を手分けして行うような場面でこそ効果を発揮する。製造現場や大量の書類を処理するような業務などでは、全体の能率向上に役立ってきた。しかし知恵を発揮して工夫しなければならない業務、顧客に応じて柔軟な対応をしたり、ほかの社員やパートナー企業と協力して課題を解決するなどといった業務には、厳格な統制が逆に足かせとなる。その反省から、権限委譲すなわち各自に自由度を与えようとする動きが強まりつつある。
「経営者の意識も一部では変わりつつあります。IBMが世界的組織のトップ1709人を対象として行った調査『CEO Study 2012』では、どうやって社員の能力を引き出すのかという設問に対し、『開放的な組織の実現』とする回答が業績の高い企業で48%。業績の低い企業でも37%ですが、業績の高い企業の方が多いのです」(斉藤氏)
この調査では、「社員の能力をいかに引き出すか」という問いに対しては、「共有される倫理観・価値観」「コラボを推奨する職場環境」「組織のミッション」といった回答が上位を占める。意識を共有し、協力し合うことを推進するのが重要ということになる。
「CEO Study 2012の調査分析サマリーでは、好業績企業の経営トップは『つながりによる優位性の構築』を目指している、と記されています。社員・顧客・取引先との関係性を深めることが優位性につながるというのです」(斉藤氏)