アナリストの視点

再び動き出したERP投資--経営基盤の再構築を目指す - (page 2)

小林明子(矢野経済研究所 上級研究員)

2013-05-21 07:30

1.市場におけるトレンド

 ERP市場での新しい動向として注目されているキーワードには、モビリティ、ビッグデータ、タレントマネジメントの3つが挙げられる。現時点では、トレンドを作り出そうとするベンダー側のプロモーション色が強く、実需という意味ではまだインパクトは小さいが、広く活用されるようになるのもそう遠い未来ではないだろう。それぞれについて簡単に動向を紹介する。

 まずモビリティだが、ERPのようなエンタープライズ分野でもタブレットやスマートフォンの利用が進んでいる。企業のマネージャーは、経営情報を確認するのにPCの電源を入れてアプリケーションを開くまで5分待つのではなく、タブレットで即座に見られるのであれば、便利だと感じるであろう。

 また、販売や生産の現場では、スマートデバイスを使った受注状況や受注履歴、在庫等の確認、実績データの入力といった用途が考えられる。単なるデバイスの置き換えではなく、業務スタイルの改革につながるようなモビリティの活用が期待される。

 昨今話題のビッグデータもまた、ERPと無縁ではない。従来のBIやDWHからさらに分析対象を拡大し、大手企業のグローバル全体の経営データや、ERPと他の社内システムのデータ、社外のSNSやセンサーデータなどと組み合わせて分析するといった考え方である。大手ベンダーのSAPはインメモリデータベース「HANA」で稼働するERPを、オラクルはDWHアプライアンスの「Exadata」などを提供しており、「ビッグデータ+ERP」を巡る動きは始まったばかりだ。

 3つ目はタレントマネジメントだ。2012年にはメディアにも取り上げられ、注目を浴びた。矢野経済研究所の調査でも、2012年には人事分野の売上は堅調に伸びている。ただし、タレントマネジメントそのものはまだ黎明期で、実際に売れているのは人事、就労といった従来型のシステムだ。これまでも日本企業はコンピテンシー管理など、欧米式人事制度を取り入れようとしてきたが成功したとは言い難く、タレントマネジメントに関しても未知数である。

 しかし、タレントマネジメントへの注目によって、改めて人事分野でのITの活用意欲が喚起されたと言って差し支えないだろう。

2.ERP導入におけるポイントは、変化に強い経営基盤の構築

 十数年前と比較するとERPパッケージの種類は増え、高機能化し、価格は安くなり、導入ベンダーのノウハウは向上した。業種や業務に対応するテンプレートも多数構築されている。自社業務にあったERPの構築、複数の業務分野にまたがるERP導入というと、いまだに重厚長大なイメージがあるかもしれないが、価格、性能の上で十分に検討に値するものとなっている可能性が高い。

 また、自社開発システムを利用している企業においても、スクラッチでは維持や運用が属人化しがちであること、構築/運用コストが高くつくことなどから、次回システムを導入または更新する際にパッケージを選択するモティベーションは高い。特に、販売管理、生産管理は、現在自社開発システムを利用している比率が5割以上あるが、次回の更新および導入時の自社開発システム利用意向は2~3割であり、その差は20~30ポイント程もある。

自社開発システムの利用率と今後の利用意向 自社開発システムの利用率と今後の利用意向
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