キャリアの苦悩とは
4月末に主要通信3社(NTT、KDDI、ソフトバンク)の2012年度決算発表が行われた。NTTグループについては、東西会社などの影響もあるので、持ち株の決算ではなく、NTTドコモの決算を用いてこの3社の状況を見てみる。
ドコモの営業利益を除き、各社増収増益である。にもかかわらず「キャリアの苦悩?」と思われるかもしれない。大変な苦労をしている総合家電メーカーなど、ほかの産業から見たら到底苦しんでいるとは言えない、という声も聞こえてきそうである。
しかしながら、各キャリアとも今後どのように収益を上げていくかについて、真剣に悩んでいる。その悩みの根源は、通信産業が内包する収益とコストの構造にある。
まずコストを考えてみよう。端的に言って、キャリアが売っているのは情報通信インフラである。そのため、インフラの拡大・更新・保守を目的に毎年多大な設備投資を行う必要がある。さまざまな設備を組み合わせ、情報を遠隔地に運び届けることこそが、キャリアの生業なのである。
このため、キャリアのP/L(損益計算書)を見ると、減価償却費が占める割合が大きいことが分かる。
次に、収益(売り上げ)側をみてみよう。最も重要な収益源は、ユーザーの利用料金である。
昨今では、端末の販売収入が売り上げの大きな位置を占めているが、ここには端末をメーカーから仕入れる原価がかかっていることなどを考えると、やはり通信サービスの利用料金が最も重要であることに異論はないであろう。
さて、キャリアの売り上げに関する経営指標としてARPU(Average Revnue Per User)という言葉を目にする機会が多いのではないだろうか。ユーザー1人あたりの平均売り上げである。
しかし、ARPUを単独で議論することにどれほどの意味があるか--ここには再考の余地がある。繰り返すが、キャリアはインフラを売っている。特に無線通信においては、最も重要な設備(インフラ)は電波帯域である。電波が欲しいがために、ソフトバンクがさまざまなロビー活動を行って900MHz帯のW-CDMA方式のサービス、いわゆるプラチナバンドを手に入れたり、イー・アクセスの買収目的は電波帯域が欲しかったからだと報じられたりしたことも、記憶に新しいであろう。
そうなると、単位設備あたりの売り上げがキャリアの経営指標として非常に重要であることが分かる。