本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉をいくつか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、EMCジャパンの山野修 代表取締役社長と、仏Dassault Systemes(ダッソー・システムズ)のBernard Charles(ベルナール・シャーレス)社長兼CEOの発言を紹介する。
「EMCは垂直統合型でなく、水平協業でユーザーに選択肢を提供する」 (EMCジャパン 山野修 代表取締役社長)
EMCジャパン 山野修 代表取締役社長
EMCジャパンが6月6日、今後のビジネス戦略とそれに基づく新製品を発表した。山野氏の冒頭の発言は、その発表会見で、EMCのビジネス戦略における最も重要なポイントを強調したものである。
大手システムベンダーではこのところ、クラウド化のニーズに対して総合的に対応すべく、できるだけ自社製品でシステムをつくる「垂直統合型」のビジネスモデルを目指す動きが目立っている。その意味では、EMCもグループを挙げて取り組めば垂直統合型を目指せるが、山野氏は「われわれは決して垂直統合型を目指さない」と断言した。
なぜか。同氏は「垂直統合型では、来るべき第3のプラットフォーム時代に対応できないからだ」と説明した。第3のプラットフォームとは、クラウドをはじめ、モバイル、ビッグデータ、ソーシャルといったITの新潮流をすべて支える基盤となるものだ。ちなみに、第1はメインフレーム、第2はクライアント/サーバモデルによるプラットフォームが時代を形成してきたというとらえ方だ。
では、なぜ垂直統合型だと第3のプラットフォーム時代に対応できないのか。「それは、ユーザー数とアプリケーションの種類がこれまでのプラットフォームと比べて桁違いに違ってくるからだ。端的に言えば、第2のプラットフォームではそれぞれ数億人、数万種類だったものが、第3のプラットフォームでは数十億人、数百万種類の規模に膨らむ。垂直統合型ではこうした規模の広がりに対応していくのは絶対に無理だ」と、山野氏はこれもまたキッパリと言い切った。
そこでEMCは、同氏の冒頭の発言にあるように水平協業を推し進める戦略を採る。オープンなアーキテクチャを採用し、多くのパートナー企業との間で水平協業を推し進めることで、ユーザーに幅広い選択肢を提供しようというのが戦略の最大の狙いだという。
同社はこの日、こうした戦略に則った新製品として、他社製も含めて機種の異なる複数のストレージを統合管理/リソースプール化するソフトウェア「ViPR」(ヴァイパー)を2013年下期に国内投入することも発表した。ViPRはストレージ最大手であるEMCが注力する「SDS(Software Defined Storage)」のコンセプトに基づいた製品で、いわゆるヘテロジニアスな環境に対応しているのがミソだ。
水平協業を推し進めることで、ユーザーに幅広い選択肢を提供しようという戦略は、多くのパートナー企業に好感を持たれるだろう。ただ、この戦略を推し進められるのは、EMCがキーテクノロジにおいて絶対の自信を持っているからこそとも見て取れる。