日本の製造業を取り巻く環境は、依然として厳しい。グローバル化や円高、そして東日本大震災の影響など、課題は多い。そのような状況下、PTCジャパンで社長を務める桑原宏昭氏は、「ものづくりの発想を転換し、グローバル市場での競争力を高めるにはPLM(製品ライフサイクル管理)の環境を整えることが不可欠」と語る。
PLMをERP(経営資源計画)、SCM(サプライチェーン管理)CRM(顧客関係管理)に続く「第4の基幹システム」と位置づけるPTC。日本の製造業では、PLMの導入が始まったばかりだという。桑原氏に日本における戦略を聞いた。
PTCジャパンで社長を務める桑原氏
――日本の製造業が苦境に立たされていると言われます。その環境を打破するためには、どのような施策が必要だと考えますか。
長らく日本の製造業は、「よいモノを作れば売れる」という信念の基で設計/製造に注力してきました。しかし、グローバル化が進み、価格競争やスピードが要求される現在では、技術力だけではグローバル市場の優位性は維持できません。
グローバルにビジネスを展開する製造業に求められるのは、地域ごとに異なるニーズに対応した製品をいち早く投入することと、アフターサービスを充実させることです。特に高価な製品や製造の根幹を支える機器は、ロングタームで利用します。その際に的確なサポートができるか否かで、次の購入決定に大きく影響します。製造業の新しい価値は、“サービス”であると考えています。
PTCは2012年、米国Servigisticsを買収しました。これにより、PLMの中にサービスとサポートのパーツを組み込み、CADデータ(設計情報)と連携させ、(設計情報を)アフターサービスでも活用し、さらに設計にフィードバックするサイクルを確立させました。情報を循環させ、サービスを新たな“付加価値”として提供することが、今後は重要になってきます。
――多くの日本企業はERPで資産管理しています。そうした企業がPLMを導入するメリットは何でしょうか。
ERPは企業のリソースを見える化し、それらを効率的に活用するためのものです。いわば、企業の中での“トランザクション”を管理する役割を担います。
一方、PLMは、製品の企画段階からデザイン、調達、製造、出荷、さらに出荷後のサポートまでを包括的に管理します。例えば新製品をリリースする際、どこのエリアに、いくらで販売し、どのくらいのアフターサービスが発生して、最終的にどのくらいの利益と売り上げを見込めるのかまで管理できます。つまり、業務プロセスを管理するだけでなく、収益性も管理し、戦略的なものづくりをサポートするのがPLMなのです。
企業が抱える課題に、「部門単位で情報がフラグメント(断片)化していること」が挙げられます。例えば、多くの製造業では、設計部門向けのCADデータ管理ソリューションを導入しています。しかし、それを生産技術と連携させたり、M-BOM(製造部品表)と連携させたりして、情報を一元管理している企業は少数です。
同じように、アフターサービス部門はワランティ管理だけで完結していました。しかし、どの部分が、どのような利用状況で故障したのかのデータを収集し、設計にフィードバックして次の開発に生かすことができれば、経営側が総合的に判断できます。これがERPとPLMの決定的な違いです。
――PLMを日本企業に訴求していくため、PTCジャパンではどのような戦略を考えていますか。
日本でPLMを訴求するポイントは、「コスト削減、売上拡大」と「グローバル競争」であると考えています。