100年以上前からつづく郵便物「メタデータ」の収集
米国では連邦捜査局 (FBI)や警察の要請に応じる形で、U.S. Postal Serviceが一部の郵便物の送り主などを配達前に記録することがいまなお行われている……そんな話をまとめた記事が7月初めにNYTimesに掲載されていた(註4)。
この話のポイントを1つ先に記しておくと、それは封書や小包の場合でも、開封しなければ(送り主、受取人の)プライバシーの侵害には当たらないという一種の抜け道が存在すること。通信の中味まで見ようとすると、捜査令状の取得(ならびに、それにいたる犯罪の証拠集め)といった面倒な手続きが必要になるが、外側から判別できる住所などであれば問題とはならず、FBIなどは要請の書類を記入してU.S. Postal Serviceに送るだけで、ターゲットとする人物の郵便物の「メタデータ」を手に入れることができてしまうという。
Obama大統領は、いわゆる「PRISM」プログラムの存在が明らかになった直後に、「(政府は)みなさんのメールの中味を盗み見したり、電話の中味を盗み聞きしたりはしていない」などと釈明していたが、確かに中味自体には触れていないにしても、誰が誰と、いつメッセージをやりとりしたかなどといった情報は、PRISMの場合も、この郵便物の場合も、同じように捜査当局に筒抜け、ということになろう。
NYTimesではこうした郵便物のメタデータ収集が100年以上前から行われているとし、たとえば1950年代にはソ連行きの郵便物に対して同様の行為が行われた――中には、勝手に開封される場合もあった――などと記している。
こうした行為が(非戦時下の今でも)なくならないのは、現在のようなデジタル時代になっても郵便物の監視にそれなりの有用性が残っているからで、実際に毒物郵送の犯人割り出しや、売春や麻薬密輸といった犯罪の摘発、さらに医療保険の不正受給(詐欺行為)発見などにもこのやり方が役立っているという。また「郵便物の監視からは、誰がどこの銀行を使っているか、誰と連絡を取ったかなどが分かり、それが犯罪解明につながることも珍しくない」といった元FBI捜査官のコメントも紹介されている。
また、今では集荷した郵便物の宛先判別に文字認識技術(OCR)が使われることも当たり前になっている。2011年11月のWSJ記事(註5)には、「U.S. Postal Serviceには実はいまだに宛名を読み取る名人みたいな専門スタッフが何百人も常駐している拠点がある(略)。スタッフは、文字とは思えないような宛名書きまで見事に判別している」などという話が出ていた。
このビデオからも分かるように、郵便物はまずカメラで撮影され、OCRで判別できない分だけが専門スタッフの手に渡る――記事には「OCRの読み取り成功率が95%程度に達している」といった記述もある――という順番だから、年間1600億通といわれる米国の郵便物でも、そのメタデータだけなら、比較的簡単に記録・保存が可能と思える。
さらにまた「実際に使うかどうかはわからないけれど、とりあえず記録だけはしておいて……」というのは、NSAが建設中のユタデータセンターでやろうとしている(そう言われている)のと共通するアプローチにも思える……。
話を元に戻そう。
こうした灰色の行為が乱用につながることは避けがたいようで、NYTimesではそうした乱用の一例として、アリゾナ州であったある出来事を記している。同州のMaricopaという郡で保安官を務めるJoe Arpaioなる人物が、自分の不法移民取り締まりのやり方に批判的なMary Rose Wilcoxという郡の監督官の動きをつかむために、Postal Serviceに依頼して彼女の郵便物を監視していたという疑いが浮上。Wilcoxからの訴えを受けた連邦裁では、彼女の言い分を認め、約100万ドルの補償支払いを命じたという。
また、NSAによる「バルクでのデータ収集」(PRISMとは別のもの)については、集められた記録がいつまで保存されるかといった点についても、まだはっきりとした取り決めがなさそうで、その点に薄気味悪さを感じる人がいても不思議はない。