組織の透明力

社員が自ら動き出す組織のつくり方 - (page 5)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-08-08 07:30

 ソーシャルシフト・コミッティは、モデル店舗の運営を全面的にバックアップするための本社会議体だ。その特徴は「現場の管理」ではなく「現場の支援」という姿勢を徹底している点にある。委員長としてリードするのは藤田社長、メンバーは各部門のトップやマネージャークラスで構成され、毎週のように現場の問題点を解決していく。

 現場の業務を簡素化して権限委譲するための業務改善、いわゆるビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)を実行するとともに、社内情報共有システムの見直し、KPI(重要業績評価指標)や評価制度の見直しなど、社内改革を推進するエンジンとなっている。

 ソーシャルシフトの考え方が社内に浸透するまで約1年かかったが、モデル店舗の店長やパートさんが主導するカタチで、自律的な活動が広まりつつある。また、商品本部などの本社における改革もスタートした。今年10店でスタートしたモデル店舗を、来年には30店へ、そして再来年にはすべての店舗へと広げていく予定だ。2015年末にはカスミ全社が「自律型組織」として生まれ変わる。そんなビジョンを共有し、今日もカスミの挑戦は続いている。

 「日本にチェーンストアが誕生して50年余になるが、このシステムを一度完全に壊さないと、自己革新ができないと私は思っている。従来型ではない思想や仕組みのもとで、生活者や地域社会とのつながりを再構築しない限り、スーパーマーケットは真のお客様満足を実現できない。目指すのは、あらゆる顧客接点で自主的に判断し行動できる現場、それを許容できるマネジメントの経営システム。極論すれば『本部のないチェーン・システム』だ。

 とりわけカスミのようなローカルチェーンにとっては、そこが生き残りのカギになるだろう」。100年続くカスミへの再構築に向けて、今も小浜会長の決断は揺るぐことはない。

パラダイムシフトを加速させる透明の力

 中央統制は、経年劣化を招く要素が内在された仕組みだ。いつの間にか社員の関心は顧客から上司にうつり、顧客価値を創造しない業務が増加してゆく。何に使うのかわからない報告書、延々と続く意味のない定例会議、現場を知らない人たちが決済をする稟議。

 その無意味さを全員が認識していながら誰もやめられない、やめようともしない。いつの間にか事なかれ主義が蔓延し、現場社員のみならず、管理職の持っていた「貢献したいエネルギー」が失われてゆく。

 透明な時代にあるべき組織像は、その対極に位置するものだ。顧客は、あらゆる接点において、迅速で誠実な対応ができる企業像を求めている。そのためには、顧客と接点を持つ現場社員が自律的に行動できるシステムを構築することが大切だ。規律から自律へ。今こそ、組織の行動原理を変え、自律型組織を構築すべきタイミングなのだ。

 全世界の企業トップ1700人に対する調査結果をまとめた「IBM Global CEO Study 2012」においても、CEOは「価値観の共有を通じて、社員に権限を委譲する」こと、つまり自律型組織への転換に乗り出していることがわかる。優秀な社員ほど、自律型組織を好むという点も大切な要素だろう。

出所: IBM Global CEO Study 2012
出所: IBM Global CEO Study 2012

 ルールブックの代わりに企業哲学を。統制リーダーシップの代わりにオープンリーダーシップを。社内を透明にし、共感できる使命や価値観を共有し、社員間のコミュニケーションを促進する。すると社員にはコミュニティの一員としての自覚が芽生えてくる。同僚の共感や評価を得ながら、使命を達成しようと考え出す。そして社員は所属するコミュニティのために、自ら献身的に動き出すのだ。

 「がみがみと言って行動させる」のではなく「自発的に会社のために行動する場を創る」ことだ。筆者はループスやコンサルティング先で自律的組織への変革がいかに社員を笑顔にし、顧客経験価値を高める場面を何度も目にしており、その効果を確信している。この記事を読んで共感していただいた方は、ぜひ身近なチームから、自分にできる第一歩を踏み出してほしい。

 千里の道も一歩から始まる。あなたの行動が仲間や顧客の共感を呼べば、自然と伝播して社内外に同志が増えてゆく。一人の小さな行動が、アラブの春のごとくムーブメントとなり、いつか大きなシフトとなってゆくはずだ。

 以下は、筆者による編集後記です。


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斉藤 徹
ループス・コミュニケーションズ
1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社、1991年2月株式会社フレックスファームを創業。2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルメディアの第一人者として、ソーシャルメディアのビジネス活用、透明な時代のビジネス改革を企業に提言している。講演回数は年間100回を超える。「BEソーシャル ~ 社員と顧客に愛される5つのシフト」「ソーシャルシフト ~これからの企業にとって一番大切なこと」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディアダイナミクス」など著作は多数。

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