三国大洋のスクラップブック

アマゾンの配送センターで未来に希望の持てるミドルクラスの雇用を創出できるのか - (page 2)

三国大洋

2013-08-07 16:21

未来のない仕事

 7月初めにはFast Companyで、Amazonが英国に設けた配送センターの内部をとらえたフォトレポートが掲載されていた。「自分の仕事場が人間味に欠けると思うなら、このAmazonの配送センターを見てごらん」という趣旨の見出し(“Think Your Office Is Soulless? Check Out This Amazon Fulfillment Center”:註4)が付されたこの記事は、2月にFT.comで掲載された英国拠点に関する記事(註5)の取材に同行したBen Robertsというカメラマンの話をもとに別のライターが書き起こしたもので、同カメラマンが撮影した鮮明な写真と、そして彼が体験した倉庫内部の様子などが記されていて興味深い。

 この記事の中には、内部が非常に静かであること――従業員が黙々と、ただ商品をピックアップするためにサッカー場9個分もある広い倉庫内を歩き回っていることや、彼から多いときには1日に15マイル(約24キロ)も歩くことなどが記されている。また「ラゲリー(にあるAmazon配送センター)で働いている労働者は実質的に人間の姿をしたロボット(略)Amazonがまだ彼らの代わりにロボットを導入していない唯一の理由は、いろいろなサイズがあるパッケージを扱える機械がまだ見つかっていないため」というRobertsの言葉が引用されていたりもする(註6)。

 もうひとつ、この記事の中で印象に残るのは、同配送センターでの仕事について、「問題は、仕事(の条件や内容)がきついことではなく(略)、この仕事には未来が見えないこと」というRobertsの指摘。ラゲリーという町はかつて炭鉱で栄えた土地だったが、炭鉱が廃れた今、ほかにこれといった定職が見つからずにAmazonの配送センターに働きに来ている者も多い。彼らの中には、かつて家族の誰かが炭鉱堀の危険な仕事をしていたという例も少なくない。

 そんな環境に育った者としては、Amazonでのきつい仕事自体はそれほど苦にならないが、ただし炭鉱夫の場合は「一生の仕事」で、18歳で働き始める時に「35歳頃までには炭鉱夫のチームを率いるリーダーになっている自分の姿を想像できた。それに比べると、いつクビを切られるかもわからないAmazonでの仕事では、将来設計もままならない……」といったあたりが悩みの種らしい(註7)。そうしたこともあり、大きな期待を込めて配送センターを誘致した地元経済は、今のところ思ったほど活性化していないという。

「たこつぼ」にいることを気にもとめない人々

 一方、Gawkerが7月下旬に公開した記事(註8)には、実際に米テネシー州にあるAmazonの配送センターで働いているという読者からのメールが掲載されている。こちらには、例えば「1日(10時間勤務)に15分間の休憩が2回、それに30分の昼休み」しかなく、また運が悪いと「決められた休憩場所に戻るために大半の時間をとられてしまい、5分休んだだけでまた仕事に……」といったこともあり得る、などといった話が書かれている。

 同時に「確かに単調で死ぬほど退屈な仕事だけど、作業自体は決して難しいものではない(略)そこそこ手抜きして、面白そうな書籍があったら手に取ってみたり、あるいは水を飲んだり、身体を伸ばしたりといったことが存分にできる」「ちょっと信じがたいのは、目標として定められた30秒あたり1パッケージの荷物を数える(ピックアップされた商品を確認する)作業に難儀している連中がたくさんいることで、そうなると労働力の質といったことが頭に浮かんでくる……」などとも記されている。

 また、ほかの従業員の中には、このメールの書き手が働き始めて1週間で、すでにもっと条件の良い別の仕事を探し始めているなどと聞いて、「こいつは頭がおかしいのか」といった反応を見せる者もいた、などとも書かれている。そうした人々が「こんな労働環境に対して嫌悪感も抱かず、自分たちが働いている牢獄(prison)から脱出したいという気持ちにもなっていないというのはショッキングなこと」と、この書き手はメールを結んでいる(註9)。

 なお、米国時間8月4日にはThe New York Timesで、ドイツのAmazon配送センター2カ所で労働組合に加入する従業員がストライキ中、という話が報じられていた(註10)。「倉庫就労者ではなく、小売業従業員並みの賃金支払いを」というのが表向きの争点らしいが、その背景にはそもそも労働組合が嫌いな米企業の代表格ともいえるAmazonと、企業の経営にまで影響力を行使するドイツの労働組合との「文化的な摩擦」といった問題があるという。

 Amazonをめぐる雇用と税金の問題は、これから世界各地でますます盛り上がることになるのかもしれない。

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