エリック松永のメディア・デモクラシー講座

「テレビ番組制作の黄金時代」からこれからのメディアの価値を再考する - (page 5)

松永 エリック・匡史(プライスウォーターハウスクーパース)

2013-08-09 18:00

クリエイティビティーとビジネスセンスのバランスをもつべき

 テレビはクリエイティブ(ものづくり)とビジネス(営業)の両輪が程良い大きさで回るから前に進めるのです。それが1980年代からビジネスの車輪が大きくなってしまい、バランスが取れなくてうまく前に進めなくなってしまいました。そうした中で景気が傾き、スポンサーは削減しやすい広告宣伝費を削減する、その煽りを受けて放送局は制作費を絞るようになりました。2003年の制作費をピークに削減傾向になり、2008年のリーマンショックで制作費がさらに下がりました。

 制作費が高いから良いものが作れるわけではありませんが、2008年以降似たような出演者たちの組み合わせを少し変えるだけで番組を作った結果、画一的な番組ができ、出演者たちの内輪の笑いを放送するようになりました。そうした番組が放送されることに視聴者も嫌気が差し、テレビを見なくなっていき、そして、視聴率が下がれば広告宣伝費が下がるという「負のスパイラル」に陥ったのです。一方でインターネットが普及し、魅力的なコミュニケーションの場になってきたのではないでしょうか。

 このように考えていくと、1953年にはじめてテレビ放送が始まったときのワクワク感を、60年かけて、皆で削いできたようにみえます。いま必要なのはテレビならではの可能性を探っていくということ、“ものづくり”としてテレビが蓄積してきたことを生かしながら前に進むことです。タイミングはまさに今であり、今こそが、テレビメディアのデモクラシーであり、「Re-Start」の時期なのではないでしょうか。

日本のテレビメディア業界の在り方

エリック松永氏 なるほど、視聴率市場主義から生まれたビジネス偏重が現在の課題で、適切なビジネスとクリエイティビティのバランスに戻さなければいけないという事ですね。そのためには、制作会社はもの作りの明確なスタンスを持ち、「もの」を作る情熱のある人材を集めなければいけない。そのヒントとしてテレビマンユニオンの経験、例えばモチベーションを維持するための報酬システムのようなノウハウが業界活性化に役に立つと考えているということですね。

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碓井 広義
上智大学文学部新聞学科 教授(メディア論)
1955年、長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。テレビマンユニオン・プロデューサーおよび代表取締役常務、慶應義塾大学環境情報学部助教授、東京工科大学メディア学部教授などを経て現職。専門はメディア論。著書に:「テレビの教科書」「テレビが夢を見る日」「ニュースの大研究」ほか。「月刊民放」「北海道新聞」などに放送時評を連載中。放送批評懇談会理事、民放連賞「放送と公共性」選考委員、日本広報協会 広報アドバイザー。現在でもBSジャパン「大竹まことの金曜オトナイト」TBS「TBSレビュー」にレギュラー出演等、テレビメディアで多方面に活躍されている。テレビマンユニオンとは1970年2月25日に創立された、日本最初の独立系テレビ番組制作プロダクション独立系プロダクションの草分けであり、今も業界を代表するプロダクションとして幅広く知られている。(製作番組「世界不思議発見!」「食彩の王国」など多数)。碓井氏は81年にテレビマンユニオンに参加し、代表取締役常務を務められるなど、長年活躍された。「人間ドキュメント夏目雅子物語」番組のメインプロデューサーとしても知られている。
エリック松永(Eric Matsunaga)
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 エンターテイメント&メディア リードパートナー
バークリー音学院出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つアーティストであり、放送から音楽、映画、ゲーム、広告、スマホまで、幅広くメディア業界の未来をリードする人気メディア戦略コンサルタント。アクセンチュア、野村総合研究所、デロイトトーマツコンサルティンクグメディアセクター APAC統括パートナーを経て、現職。主な著書:『クラウドコンピューティングの幻想』(技術評論社)、『イノべーション手法50 -デフレ時代を勝ち抜く経営術-』日経BPムック。GQでも連載を掲載中。その他、メディア系専門誌、ウェブメディアに執筆多数。多方面での講演も話題になっている。

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