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半沢直樹の戦略と派閥撲滅の秘策を考察する - (page 2)

斉藤徹(ループス・コミュニケーションズ)

2013-08-28 11:00

「しっぺ返し戦略」の優位性

 そのコンピュータ選手権を開催したのは、米国政治学者でミシガン大学教授、ロバート・アクセルロッドだ。1984年、彼は、ゲーム理論家だけでなく経済学、心理学、数学、社会学、政治学、進化生物学、コンピュータサインエンスにいたるまで、さまざまな分野の研究者から「無限繰返し型囚人のジレンマ」におけるゲーム戦略を募集し、コンピュータプログラムによる総当たり対戦の実験を行った。

 この競技に参加したのは、各分野の専門家が用意した「1回ごとに協調か裏切りかのどちらかを選ぶ決定規則を記述したコンピュータプログラム」だ。このプログラムが、自身の戦略やランダム戦略も含めて、すべてのプログラムとの総当りのリーグ方式をとり、最も良い成績を得たものが優勝するという仕組みだ。

 第1回選手権の参加者は14人、ただし勝負の結果は意外だった。各分野の専門家が練りに練った戦略を持ち込んだにも関わらず、プログラム数にして4行、最も単純な戦略である「しっぺ返し(tit for tat)」が優勝したのだ。しっぺ返しとは「最初は協調行動を取り、その後は相手が前回取ったのと同じ行動をとる」というシンプルな戦略だ。

 参考までに、競合となった戦略をいくつかあげておこう。一度裏切ると報復しつづける「フリードマン戦略」、ときおり裏切って食い逃げを図る「ヨッス戦略」、二回連続して裏切らない限り協調するという「堪忍袋戦略」、毎回相手の手を確率で予想し長期的な利益を最大化しようとする「ダウニング戦略」など、多様な戦略をもつプログラムが参加していたことが分かる。

 この選手権は話題になり、第2回目も開催された。参加者は6カ国から62人にまで増え、総対戦数は100万回を超えた。しかし、第二回目も優勝したのは、しっぺ返し戦略だった。特にこの回の参加者は、全員がしっぺ返し戦略を意識して対抗策を練った上での優勝だったため、しっぺ返し戦略の強さが際立つことになり、ゲーム理論、行動経済学、進化生物学、倫理学などで頻繁に引用されるようになった。

 この戦略だけが安定的に勝つというわけではないなど一部のゲーム理論家から批判が出ているが、社会的なジレンマにおいてしっぺ返し戦略が非常に有効な戦略だということは言えるだろう。

 興味深いのは、この選手権におけるしっぺ返し戦略の個別戦績だ。この戦略はどんな相手と戦ってもそこそこうまくやったので優勝したのだが、実は個別戦績で相手よりも高い得点を上げたことは一度もなかったのだ。それはそうだろう。最初に裏切るのはいつも相手からだからだ。見方を変えるとしっぺ返し戦略は相手を叩きのめしたわけではなく、双方ともにうまくやれる行動を相手から引き出した。その点で首尾一貫していたので、総合的に見ると他の戦略を上回ったのだ。アクセルロッド教授はしっぺ返し戦略の優位性を次の4点にまとめている。

  • 自分からは決して裏切らないことで、上品な相手との協調行動を育む
  • 相手の裏切りはすぐ制裁することで、下品な相手につけこまれないようにする
  • 相手が謝ったらすぐに許すことで、協調行動を促進する
  • シンプルな戦略であるため、相手はこちらの行動を推測でき、協調する誘因を高める

 さらに彼は選手権の結果を発展させ、多様な戦略を持つ相手と何度も選手権を経験するようなシミュレーションを行った。得点の低い戦略は次第に「淘汰」され、得点の高い戦略が「子孫」を残すという進化論的な分析を加えたのだ。それによると、付き合いの長い関係性においては、最初に数人のしっぺ返し仲間がいれば、いずれは全体に広がっていき、組織全体として、しっぺ返しが文化として根づいていくという結果が導かれた。

 半沢直樹の信条である「基本は性善説。しかしやられたら倍返し」というシンプルな戦略は、まさにしっぺ返し戦略に通じるものだ。この実験結果に基づくと、性悪説を基礎とした銀行のような組織においても、半沢戦略は有効なのではないかと推測される。

 ただし、半沢の「倍返し」「10倍返し」はあまりに強烈で、感情的に対立する人物を作り過ぎる点はドラマとして割り引いて考える必要があるが、少なくとも上司の顔色で行動を決める「風見鶏戦略」などは、長期的にみればしっぺ返し戦略に淘汰されてしまう可能性が高いだろう。ドラマで半沢と徒党を組む「渡真利」や「近藤」の同窓チームが、ゆくゆくは勢力を増やしていく可能性が示唆されたようでとても興味深い。

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