大元隆志のワークシフト論

2013年の働き方--インターネットの重力と可能性または焦燥 - (page 2)

大元隆志(ITビジネスアナリスト)

2013-08-29 07:30

「会社を辞めさせる」ことがビジネスになっている

 さらに、こんなこともあった。あるイベント主催者から「SIerで働くエンジニアの未来」を考えるという趣旨のイベントを開催するので、パネリストとして登壇してほしいとの打診があった時のことである。

 クラウドの台頭でSIerのビジネスモデルは変化すると考えていたので、ぜひ登壇をと話を聞いたのだが、イベントの表向きのテーマとは裏腹に「SIerのエンジニアの危機感をあおり、スタートアップへ転職させることが狙い」なのだという。これを聞いて愕然とした。SIerで働く人間として真面目にSIerの今後を論じたいと思っていたのに、「さっさと転職した方が良い」と結論を出すのが狙いだったのだから。

 イベントのスポンサーは人材ビジネスの会社であり、当時はスマホエンジニアやソーシャルゲーム市場が勢いを見せていた時期だったので、SIer業界を「エンジニアの狩り場」として目を付けこのようなイベントを主催していたのである。

 「新しい生き方を語る」論者の背後には「ビジネス」があり、自分の生き方を考える人達のために語っているのではないのかもしれない、これが筆者の国内の働き方ブームに対して感じる「違和感」だった。

ITの変化が引き起こしている「働き方」の潮流

 かといって、「新しい働き方」の検討の必要性を否定する気はない。前述した通り、筆者自身も新しい働き方を模索し、実践する一人である。「融合する世界」の登場によって、労働環境の変化と、人々の精神面に変化の兆しが見えている。

「4+1の力」によって変化する労働環境

1.起業のハードルが下がった

 2006年5月1日から施行された「会社法」により最低資本金規制が撤廃され、事務上の手続きでは「1円起業」が可能になった。しかし、事業を行うためには「初期投資」が必要になる。オフィスを構え、従業員を募集し、宣伝のためのビラを作成し、場合によってはパソコンやサーバといったIT投資も必要になる。事務上の手続きは「1円」で行えるようになったが、事業を展開するためのコストが不要になったわけではなかった。

 しかし、クラウドやソーシャルメディアの普及により、業種によってはオフィスも不要、宣伝も不要、従業員の募集もソーシャルメディアでつながった友人達でまかない、IT投資はクラウドによって月数万程度で済むようになった。

 世界の若者は今や芸能人や総理大臣より、若くして成功したIT業界のリーダーに憧れる。25歳の若さで約40億ドルの資産を手にし、米Forbes誌が「世界で最も若い10人の億万長者」に選んだ米FacebookのMark Zuckerberg氏の影響は大きい。

 Zuckerberg氏を目指してクラウドでビジネスを展開すれば、初期投資はクレジットカードの限度枠程度のリスクで起業することができるようになった。学生のうちから仲間を集め、クラウド起業で夢に挑む若者が増えている。

2.フリーランス(ノマド)を取り巻く環境変化

 日本のインフラ環境は世界有数であり、スマートデバイスとノートパソコン、データを保管するクラウドがあれば「オフィス」がなくても場所を選ばず仕事ができるようになった。「カフェ」でAir Macを広げて仕事をするスタイルが、一部の若者を中心にブームとなった。「Wi-Fiと充電可能なカフェ」を求めて転々とする姿を「ノマド(遊牧民)」に例えられたことが「ノマドブーム」の発端だ。

 オフィスから解放されること=会社からの解放と捉え「自由になれる」と連想させるのか、会社を辞めてフリーランスになる若者が現れだした。

 

 フリーランスが仕事を受注するためのプラットフォームとして、クラウドソーシングというジャンルも注目を集めるようになってきた。これは簡単に言ってしまえばタスクを振りたい発注主と、仕事を探している受注者を仲介するサービスだ。

 

 クラウドソーシングが普及すれば、BtoB、BtoCといった企業が介在するモデルだけでなく、CtoCという、個人間で仕事の受発注が行う新たな労働市場が生まれる可能性もある「働く場所」と「収入を得る」という2つの機能を社会の中で果たす役割が、必ずしも「会社」だけのものではなくなってきた。

3.収入を得るために身体が拘束される必要がなくなった

 銀行の利子や株式投資といった財テクを除くと、収入を得る最も手軽な方法は「サービス業のアルバイト」や「内職」といった肉体を拘束されるものであった。

 クラウド決済のPayPalや、スマートデバイスによる決済が可能になったことと、電子書籍による自費出版やブログのアフィリエイト、有料メルマガのサービスを個人でも手軽に提供できるようになったことで、肉体を拘束されず収入を得る仕組みが整った。コンテンツを作るのに時間は必要だが、それさえ作ってしまえば、あとは掛け算方式で収入を得ることが可能だ。

 例えばブログによるアフィリエイトの場合、休日にブログを書いておけば、平日は通常通り会社に通っていたとしても、24時間365日ブログの訪問者へセールスを行っているとも言える。

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