大元隆志のワークシフト論

2013年の働き方--インターネットの重力と可能性または焦燥 - (page 3)

大元隆志(ITビジネスアナリスト)

2013-08-29 07:30

4.迫られる企業の役割の変化

 このように、起業による初期投資が下がり起業家という選択肢が増えたこと、従来会社が提供していた「働く場所」と「収入を得る」という機能が、会社だけのものではなくなってきたことが主な要因となり、「働き方」の選択肢が増えていることは事実だ。

 

 企業側にとっては、「働く場所」と「金銭による収入」だけが「忠誠を誓わせる」ものではなくなることを考慮しなければならない。フリーランスになっても食べていけるほどの優秀な人材をどのように引き止めるかを考える必要が出てくるだろう。

 

 実際、Googleなどの優秀なエンジニア確保に力を入れるIT系企業は飲食無料のサービスやビリヤード、ダーツといった遊戯施設の提供など、「働く場所」や「金銭」だけではない「会社の魅力」を訴求している。国内でも注目を集めるBYODも海外ではエンジニアを引きつける施策として認めている企業もある。

 

情報の可視化によって生まれる焦燥感

 日本社会の将来に対する不安や、リーマンショックを契機に起こった企業への不安、東日本大震災によって「生きる意味」を考える人たちが現れた。「融合する世界」の登場もまた、人々の精神面に変化をもたらしている。

 

 ノマドで一躍有名になった安藤美冬氏が主催する「自分をつくる学校」に入学している女性に、なぜ入学したのか理由を尋ねてみた。「将来が不安」という回答が返ってくるかと予想していたのだが、返ってきた答えは意外なものだった。「何者にもなれない自分への焦り」なのだという。その女性は東証一部上場企業に勤める26歳。恋愛や趣味に時間を費やしていてもおかしくない年齢だ。それなのに「何者かにならなけねばならない」という漠然とした焦燥感が消えないのだという。

 この答えは意外だったが、思わず「わかる」と頷いてしまった。ソーシャルメディアの普及によって多くの人とつながることが可能になり、今まで遠い存在だった有名人でさえ、身近に感じ、時には対話することさえできるようになった。当初は有名人と出会えて喜んでいただけだったはずが、雲の上の存在だった人を身近に感じてしまうことで、生活レベルや交友関係の違いも可視化されるようになる。一般人でさえも競って華やかな自分を演出しようとする。

 ソーシャルメディアがなければ触れることも、知ることもなかった華やかな世界や、活躍する同世代の人々を知る「苦しみ」。そこから生まれる「焦燥感」が「新しい働き方」、いやもっと言えば「新しい生き方」探しへと駆り立てていたのだ。

本当の答えはまだ見つかっていない

 「4+1の力」とそれによって生まれた「融合する世界」の登場によって、労働環境に変化が起きているのは事実だ。だからこそ、「新しい働き方」を検討することには意味がある。しかし、変化を感じつつも本当の答えはまだ誰も見つけてはいないのではないだろうか。

 

 例えば「クラウドソーシング」のようなサービスが普及すれば、競争の激しい「ワーキングプア」へと転がり落ちる可能性もある(この件は今後触れる予定だ)。正直に言えば筆者も働き方を「模索中」である。一部のエリートだけが生き残る「働き方論」ではない道筋を、この連載を通して皆様と一緒に考えて行きたいと思う。

大元隆志
通信事業者のインフラ設計、提案、企画を13年経験。異なるレイヤの経験を活かし、技術者、経営層、 顧客の三つの包括的な視点で経営とITを融合するITビジネスアナリスト。業界動向、競合分析を得意とする。『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』など著書多数。

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